華麗なる一族 【山崎豊子】

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華麗なる一族〈上〉
華麗なる一族〈中〉
華麗なる一族〈下〉


久々に山崎豊子作品を読みました。
沈まぬ太陽」「大地の子」に続き三作目。
まあドラマがはじまったのがきっかけけですが。

上中下の三巻構成ですが、それぞれが600ページもの長さゆえ
最初は読み終える前にドラマが終わってしまうのでは、と
思っていたのですが、上巻こそペースがゆっくりだったものの、
中巻、下巻と読み進めるうちにどんどんペースが上がり、
あっという間に読み終えてしまいました。


銀行界、政界、鉄鋼業界と今回も相変わらず自分の現実とは
到底かけ離れた世界の、スケールのとてつもなくでかい話です。
一介の小説家がここまで産業界の深淵を描けることに驚異を感じます。
(まあ自分は汎用なる市民なのでその真偽は知る由もないのですが)

それでいてリアリストの自分を惹きつけるものがある。
他人事ではすまされない、どうしようもないやるせなさを感じさせる。
それが前二作品を含めて感じる山崎作品独特の魅力なのでしょうか...

物語は万俵コンツェルンの総帥で家長の万俵大介を中心とした
タイトルどおり「華麗なる一族」の野望と謀略の渦を描いた作品。


以下は例によってネタばれなところもあるのでドラマを観ていて
結末を知りたくない、という方は読まれないことをオススメします。


世の中は「正義が勝つ」のではなく、「強者が勝つ」。
この物語はあらためてこのことを教えてくれる。

この物語ははっきりいって悲劇です。

下巻の中盤くらいまでは大介の謀略の限りにとにかく腹が立ちます。
そして中盤以降長男・鉄平と大介の銀行の合併相手の頭取・三雲の正義が
粉砕されていくさまはやるせなさがこみ上げてきます。

正義が負け、悪が勝つ。
この物語を読んで結局世の中そんなものか、と落胆する人も多いと思います。
そしてそう思う人はやはり実際負けていく人なのだと僕は思う。


正義と悪、どちらが勝つか、という問いは白と黒のどちらが勝つ?と
問うくらいナンセンスだと思う。
矛盾あふれるこの世界において唯一つの真理は
「弱肉強食」-強いものが勝つ、ということ。
それを忘れてはならない。

謀略に生きるか、道徳に生きるか。
それはその人それぞれの「選択」であり、個性だと思う。
社会においては「法」を犯さない限り「悪」とはみなされないのだから
謀略もまた生き方の一つの選択肢として存在すると思うのです。

大切なのはその選択を自らの意志を持って行い、受け入れているか。
それができる者が強者となり、できないものが弱者になる。
弱者は自らを知らない。
自らを知らないから自分で選択できない。
自ら選択できないから誰かに選択してもらうしかない。

弱者の生きる道は自らが強くなるか、強者に頼るかのどちらか。
もっとも弱者は強くなれないから弱者なわけだから結局は後者のごとく
強者に頼るしか道はないのでしょう。大介の妻・寧子のように。
弱者は自分の意志とは裏腹の選択を強者から強いられる。
自分が選択できないから。

どんなに道徳的に弱者保護を叫んでも、自然界の摂理には逆らえない。

しかし人間は自らの意志で強くなれる動物である。
望みさえすれば誰でも強くなれる。

自分を知ることで選択ができる。
その選択は時には誤ることもあるかもしれない。
でも間違えたらまた選択しなおせばいいのだ。
そうやって「正しい選択」を覚えていくのだから。


だから僕は自分を知りたい。
強くなりたい。
人に選択される人生は歩みたくない。

自分で選択した道が多くの人に心から受け入れられること。
これほど幸せなことはないんじゃないかな。
そして僕の選択は謀略ではなく、道徳。
しかしその道は遠く、険しい。

ともすれば中途半端、という弱者になりがち。


道を見失わないために。
そのために僕はブログをつけているのかもしれない。