The Book of Tea - Chapter4. "The Tea-Room"【岡倉天心『茶の本』】

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大学の「特講Ⅱ」という授業で岡倉天心の「茶の本」を読んでいます。
授業はゼミ形式で、本の中の一部を各学生で持ち回りで担当し、
内容の解説や自分なりに感じること、興味のあることなどを発表します。


岡倉天心は全ての著書を英語で書いており、
本書は右側に原著の英語、左側に対訳が記載されており、
互いを比較しながら読み進めることができます。

...英語は苦手なのでほとんど左側しか読まないけど。


次週はいよいよ僕の番。

僕が担当するのは第4章「茶室」の前半部分。
僕がこのパートを選んだのはもちろん建築としての茶室に興味があったから。


茶室。
それは最小の建築にして、最高の建築である。
ミニマルなハードに、マックスのソフトを盛り込む。

さまざまな建築作品を創ってきたル・コルビジェが
最後に母のための小さな家を作ったように、
建築の最高の醍醐味がそこにはあるのかもしれません。



内容を段落ごとに順を追って解説していきます。
なお、本記事中に掲載の写真はネットから適当に拾ってきたもので、
一つの茶室を示すものではありませんのであしからず。


第一段落。
茶の本が書かれた時代はまだ日本建築の正当な評価ははじまったばかりだった。
特異な存在である茶室の美しさも理解されることはなかった。


第二段落。
茶室の別称、「すきや」について。
好みの住居、という意味で「好き家」、
空虚の住居、という意味で「空き家」、
そして本来の当て字である「数寄屋」はアシンメトリーの住居という意味らしい。

そこには不完全なものへの崇拝の精神がある。
あえて不完全なものにし、鑑賞者のイメージによって完成させる。
それは創意工夫された簡素さであるのに、
西洋の合理主義から見れば、なにもしない(無能)がゆえの簡素さに見えるらしい。

ちなみにこの数寄屋が「数寄屋造り」の語源となっています。


第三段落。
茶室の歴史。
15世紀に紹鴎により茶室の釣り合い(構成?)が定められる。
16世紀にかの利休が茶道を完成させることで茶室も完成の域へ。

茶室に入れる人数はグレースの神々より多く、ミューズの神より少ない。
ギリシャ神話においてグレースは美の三女神、
ミューズは芸術、学問を司る九女神、
つまり三人より多く、九人より少ない。本書では「五人」と記載。

そして茶室の構成。
茶を嗜む場所である茶室の他に、
茶道具一式を格納する「水屋」、
茶室に入る前に待機する場所である「待合」、
待合と茶室を結ぶ「露地」、
が紹介されているわけですが。

もちろんこれだけではあまりに簡単化しすぎで、
実際には門から入ったら取次があって、寄付という部屋で待つ。
その後待合へ通されるわけです。
待合はだいたい「腰掛待合」と呼ばれる簡素な小屋もしくは椅子で、
露地を通って茶室に向かいます。


[腰掛待合]


第四段落。
他の日本建築との比較。
法隆寺金堂、薬師寺東塔、平等院鳳凰堂などのように
大規模で装飾的、華美的な日本建築がある一方で、
日光(東照宮)や京都二条城のように過度な装飾により
本来の美が損なわれているものもある。
このようななかで茶室が簡素さを常としているのはなぜか?


第五段落。
第四段落の疑問に答える。
茶室がシンプルを旨としているのは禅宗の影響から。
禅院は大衆の参拝のための場所ではなく、
修行者の修行(生活)の場であった。
キリスト教でいう大聖堂と修道院の関係のようなものでしょうか。

「床の間」という場所は元々は禅院の会堂の仏壇だった。


第六段落。
茶室の構成は茶道の作法と同様に禅の教義に則って決まっている。
維摩経において維摩詰が曼珠師利(文殊菩薩)と仏陀の八万四千の弟子を
迎え入れた方丈(四畳半四方)の部屋が茶室の元となっている。
露地は単なる通路ではなく、瞑想の第一段階の場所である。

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[露地(東京都庭園美術館)]

「常緑樹のほの暗いかげに歩み入って、下には乾いた松葉が散りしくところ、

 不釣合のままで釣合のとれている飛石をつたい、

 苔むす御影石の燈籠のかたわらを過ぎゆくとき、いかに心が

 日常の思想の上に高められるかを想い出さずにはいられないであろう。

 身は都市の只中にいながらにして、なお文明の塵埃と騒音から

 遠くはなれた森の中にあるかの感がする。」

このように露地には日常から離れ、
心の一段階奥深くへ入るための工夫がされているのです。
敷石や人工の森、石燈籠、手を清める「つくばい」はその工夫の品々なのです。

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[つくばい(MOA美術館の茶苑・一白庵)]


第七段落。
茶室の入口の「躙口(にじりぐち)」。

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[躙口(東京都庭園美術館)]

高さ三フィート(90cm程度)で低い位置に設置された入口を入るには
全ての人が腰をかがめてくぐらねばならない。
まさに謙譲の精神を教えるものなのです。


[躙口から入るには...]


しかし中には「貴人口」といって通常の入口を設けた茶室もある。
これらは茶室の本来の精神を忘れた茶室なのでしょうか?


座について、
茶釜の煮えたぎる独特の旋律に瞑想の第二段階への「こだま」を聞く。

雲に覆われた滝の、
岩の間に砕けるはるかな海の、
竹林を吹き払う雨風の、
どこか向こうの丘に立つ颯々たるひびきの、

...イメージすることで数寄屋を完成させる。


前半はここまで。


茶室は小宇宙だ。


茶道の心得はないけれど、茶道の心の一端が垣間見えた気がします。