第五十六回 日本伝統工芸展

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[欅拭漆刳貫稜線筥(けやきふきうるしくりぬきりょうせんばこ)](出典:日本工芸会


日曜美術館で日本伝統工芸展の特集を放映してました。

今年もこの季節が来たんだな~、と。


匠たちの技と工夫、そして想いが絶妙のバランスで素材に宿るとき、
...「絶品」が生まれる。


今年も受賞作品のうち、お気に入りを五点ピックアップ。
(画像は日本工芸会のもの)


今年の受賞作品の中で一番のお気に入りは、
藤嵜一正氏の木箱。

なだらかな丘に着想を得た、微妙なカーブと欅の木目とのマッチングが絶妙。


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[番組より]


番組では藤嵜氏の5年前の木箱が紹介されていたのですが、
これがまた見事。

中條アナの「思わず触りたくなる」というコメントは、
工芸品への最高の讃辞ではないでしょうか。


そのほかのお気に入り。

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[真珠光彩壺(しんじゅこうさいつぼ)](出典:日本工芸会


端正な磁器の口に部分にほんの少しの「歪み」を加える。
シンメトリーな全体に一滴のアシンメトリーを加えることで生まれる絶妙なバランス。
その造形と鮮やかな白がマッチして素晴らしい美が生まれる。


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[乾漆蓮花食籠(かんしつれんげじきろう)](出典:日本工芸会


基本造形はコンピュータの力を借りて基礎検討し、
微妙な触り心地、仕上げは人の手により丹念に行われる。
どんなに科学が発達しても、美に魂を吹き込むのは「人の手」なのだ。


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[彩変化花籃「天の河」(さいへんげはなかご「あまのがわ」)](出典:日本工芸会


竹を紫と黒、という竹本来の色とは異なる色で着色されながらも
竹の素材感を失わず、独善的でもない。
見る角度によって色彩が揺らめく様はまさしく天の川。


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[銀打出花器「潜龍」(ぎんうちだしかき「せんりゅう」)](出典:日本工芸会


丹念に打ち出すことで表現される見事な紋様は威厳を感じさせ、
まさに龍が潜んでいそうである。
それでいて、真上から眺めると、愛らしい花びらにも見え、優しさを感じさせる。

柔と剛。
一見相容れないものが同じものに内包する矛盾の美。


一昨年前の「月暈」より本展に注目するようになったのだけど、これまで会場には行けずじまいでした。
今年、ようやく念願かなって会場に足を運ぶことができたのですが。

正直ちょっとがっかりした。
「工芸」は「芸術」とは違うのだろうか。

会場は日本橋の三越本店7階の催場フロア。
三越は格式あるデパートなんでしょうが、催場という場所は
展示台や照明、展示の導線など美術館の展示と較べるとどうしても
雑で安易、という印象を受けてしまう。

加えて展示品の多さ。
16点の受賞作品を含めた入選作品全てが一同に展示してあるので、
けっこうなボリュームになってしまう。
集中力を欠いてしまい、せっかくの逸品の魅力も半減しているような気がした。
図録もただ写真を並べてあるだけの冊子で、買う気がしなかった。


工芸の魅力は「用の美」にあり、に日々の生活の中で生きてこそ、
その魅力が生きるのだと思いますが、それにしても「見せ方」というものは
もっと格調というものがあってもよいのではないだろうか。
多くの人の目に「良いもの」を触れさせる、という姿勢は大切だと思うけど、
もっとメリハリがあっても良いと思う。

どうも絵画に較べると工芸は格調が軽んじられている気がするのは
気のせいだろうか。
「用の美」だからといってと「展示の美」はどうでもいい、というものでもないはず。


16点の受賞作品は別途美術館などで多少の入場料をとってでも
きちんと展示してほしかったかな。