THE OUTLINE 見えてない輪郭【21_21】

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21_21_outline.jpg


山種美術館ギャラリー「間」を経て、21_21へ。

恵比寿から六本木って歩ける距離なんだな。


深澤直人氏の展示、というわけで無条件に出かけたのですが...
結果的には今日見た3つの展示の中では、一番失望させられた。

誤解してほしくないのだけど、
深澤氏のデザインは本当に素晴らしいと思うし、好きだ。
ただ、OUTLINE(輪郭)というこの展示のテーマは見えてこなかった気がする。


デザインされるものはただそれだけで成り立っているのではない。
それを取りまく周囲との調和により成り立っているのだ。
デザインされるものとその周囲の関係-境界線。

それがデザインの「OUTLINE-輪郭」というものなんだろうけど。


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[GRANDE PAPILIO(画像はオフィシャルサイトより)]


深澤さんのデザインのみならず、その言葉が好きだ。
デザインの輪郭」には深く感銘を受けた。

本展はその「デザインの輪郭」に書かれていることが、展示されているんだろうけど。

僕にはその輪郭は見えなかった気がする。
僕の未熟さゆえもあるんだろうけど、そんな未熟者にこそ、
教唆してくれるのがこの展示だと思ったから、失望したのかもしれない。


会場では実物と写真家・藤井保氏撮影の写真が並べられて展示されていた。

どうして写真なんだろう?
写真で輪郭が見えてくるのだろうか。

写真には詳しくないのでよく知らないのだけど、
藤井保氏は第一線で活躍する写真家らしい。
確かに写真はキレイだ。
深澤氏のデザインを美しく表現していると思う。

でもそれが「輪郭」なのだろうか。


深澤氏自身、輪郭は「モノの形」ではなく、
モノと周囲との関係=調和だと言ってるはず。
だから「見えてない輪郭」なのだと。

見えない輪郭を感じさせてくれるもの。
それが写真なのだろうか。
それを感じない僕の感覚が鈍い、ということなのだろうか。


プロダクトの魅力は「触れたい」魅力だと思う。
どんなにすぐれたグラフィックデザインでも、
この魅力を表現することはできない、と僕は思う。
目の前に存在する、という力は偉大だ。

グラフィックは無限の想像力を喚起させる力を持っている。
しかしどんなにキレイな写真や絵、CGでも
「触れたい」と感じさせてくれることはない。
僕の個人的な感想、偏見かもしれないけど。


やはり見えない輪郭を感じさせてくれるのは現物ではないだろうか。

...というわけで現物ばかり見てました。


hukasawanaoto_hiroshima.jpg
[MRUNI COLLECTION 『HIROSHIMA』(画像はオフィシャルサイトより)]

僕の一番のお気に入りはマルニ木工のコレクションのうちの1つ、「HIROSHIMA」。
これは本当に素晴らしい。
「Yチェアを越えるイス」に挑むイスとして申し分ない。

思わず触れたくなる素材感と形の関係。
実際の座り心地も最適。
なにより実際に触った感じがすごく心地よい。
座りながらずっと手すりをさすっていたくなる。
座っていて、本当に幸せな気持ちになる。

イスの周囲にあるのは人間の身体。
身体とイスの間の見えない輪郭を感じる、とはこういうことではないだろうか。


オープニング・トークとして深澤さんと藤井さんが会場に来てました。
スター・デザイナーだけあって、会場内は人でいっぱい。
トーク後には図録へのサイン会に行列ができていました。

その様子をしばらく近くで眺めてました。
スターデザイナーといっても芸能人ほどの知名度ではないので、
自分もちょっと並べばサインをもらって握手くらいはしてもらえたのだろうけど、
それをする気が起きなかった。

頭の中である疑問がぐるぐる回ってた。

デザイナーはスターであっていいのだろうか?
芸術家はスターであるべきかもしれないけど、デザイナーは?

良いデザインはデザイナーだけで生まれるのではない。
それこそデザイナーと技術者や職人などの周囲との「見えない輪郭」で
成り立っているはずではないだろうか。

それがデザイナーだけ目立つ、ということは
周囲を無視してモノだけ目立つ、ということにはならないのだろうか。

あるいはデザイナーは表現者として、
自ら広告塔にならねばならない運命にあるのだろうか。

...今はまだよく分からない


ただ、見るものにこうしていろいろ考えさせてくれる、という点では
やはりこの展示は価値あるものであり、深澤直人という人は
タダモノではない、ということなんだろうな。


ちなみに21_21の中央の中庭に今回はじめて入ることができました。
三角形のエッジの効いた場所でありながら、とても心地よい空間でした。