ソフィーの世界 (ソクラテス篇)

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僕の哲学との最初の出会いはもうかれこれ20年ほど前、
高専での哲学の授業だった。
ただ、科目名は「倫理学」とかで、直接「哲学」と銘打ってなかったけど。

その頃から哲学はそれほど嫌いじゃなかった。
ソクラテスの「無知の知」、アリストテレスの「中庸」という言葉が、
以後僕の記憶の中に居座り続けた。


しかし高専を卒業して社会に出てからは、哲学は僕の生活から消えた。
今の現代社会においては哲学はそれほど必要とされていないかのごとく。


しかしそれから20年。美大の授業で僕は再び哲学に出会った。
やはり哲学という直接的な名前ではなく、「美と芸術」という科目だったけど、
僕は再び、ソクラテスやプラトン、アリストテレスに再会した。


人間はただ「生きる」だけでは満足しない生きものだ。
「より良く生きる」ことを望む。
その願望が人に美を求めさせる。


より良く生きるために人は「科学」を発明した。

しかしその前により良く生きようとする人間の真理を見つけた人たちがいた。

人は彼らを「哲学者」と呼ぶ。


ブックオフで見つけた掘り出しもの。


  「かもめのジョナサン
  「アルジャーノンに花束を
  「メス化する自然」
  「ソフィーの世界」


これらの名著がすべて105円で買えるなんて。
ブックオフもなかなか捨てたもんじゃない。

しかしこれらの本より漫画やコミックスのほうが高価なんて。
この世界の基準的価値である「経済」なんてあまりあてにならないもんだ。


なにはともあれ。

夏眠モード全開で引きこもりの中、「ソフィーの世界」を読みはじめた。
出版当時はベストセラーで、本の名くらいは耳にしていたけれど、
当時は哲学はおろか、本そのものに興味がなかった。
14年の月日を経て、ようやくその本の頁をめくることになった。

真理は時を越える。時に囚われない。
たとえ本の価格が2500円から105円に落ちたとしても、
その本の持つ価値は変わらない。
そこに記されているのは「より良く」生きようとする真理なのだから。


14歳の少女ソフィーはある日哲学者からの不思議な手紙を受け取る。
こうして見えない哲学者とソフィーとの哲学の授業がはじまった...

本書はいわゆる哲学の入門書で、ソクラテスからフロイトに到るまでの
哲学史が順を追って判りやすく解説されています。

しかしなんと言っても総650ページにわたる分厚い本で、
判りやすく解説、といっても哲学という得体の知れないものを
理解するのはやはり難しいわけで。
例のごとくゆっくりとしたペースで読み進めています。

やっとプラトンのところまで読み終えました。


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[ラファエロ『アテナイの学堂』(Wipipediaより)]


ヨーロッパの合理主義に多大な影響を与えたと言われるギリシャの3人の哲学者、
ソクラテス、プラトン、アリストテレス。

彼らの前に自然哲学者と呼ばれる最初の哲学者たちがいた。
彼らは人間を含む自然の森羅万象に目を向けたけれど
科学が未発達であった当時においては彼らの理論は空想の域を出なかった。

一方三賢人は人間とその社会に着目した。

まずはソクラテス。
彼は言った。「私は自分が知らないということを知っている」と。
多くの人は自分が知っているものよりも、未知の領域のほうがはるかに広い、
ということに気付いていない。
仮に気付いていたとしても、既知の領域にしか目を向けようとしない。
その方が楽に生きられるからだ。

いつの世にも、疑問を投げかける人はもっとも危険な人物なのだ。

答えるのは危険ではない。

いくつかの問いのほうが、千の答えよりも多くの起爆剤を含んでいる。

「問い」よりも「答え」のほうが重要だと思ってた。
だからテストでは「答え」しか書かないのだと。

しかし「問い」がなければ「答え」もない。
1つの「問い」が多くの「答え」を生む。

ソクラテスは多くの知識人(ソフィスト)がそうするように知識を延々と説いたりはしなかった。
彼はいつもあらゆる人々に疑問を投げかけ、答えさせた。
考えさせることで人々に自ら答えを見出させた。
ソフィストは知識を教えることで人々から金を取ったが、
ソクラテスは自分を知恵ある人=ソフィストだとは思っていなかったから、
教えても人々から金を取ることはしなかった。

その意味で彼は真の哲学者(フィロソフォス=知恵を愛する人)だった。
知恵を持っていないことを知っていたから知恵を手に入れようと努力した。

つまり哲学者は貧乏なのだ。
実際ソクラテスも貧しくぼろをまとっていたという。
今日自らを哲学者と名乗って、それで生計を立てている学者たちがいるけれど、
彼らは必ずしも真の哲学者ではない。彼らはソフィストなのだ。
学志すもの貧なるべし。


次にプラトン。
ソクラテスは自分の言葉を一切書に記さなかった。
彼の弟子であったプラトンが師の言葉を記したからこそ、
今日僕たちは彼らの言葉を知ることができる。

その意味では真に偉大だったのはプラトンなのかもしれない。

彼の哲学のキーワードは「イデア」と「エロス」。

人間の意識を構成するものとして「感覚」と「理性」に分けた。
「感覚」」は身体に宿り、実世界に繋がるもの。
世界は常に変化し、とらえどころがない。

一方「理性」は絶対的な存在、不死の魂。
魂は不完全な身体に宿ることで真理を忘れてしまった。
忘れてしまった真理を求め、思い出す行為が「エロス(愛)」なのだ。


21世紀を生きる僕たちは彼らの言葉を鵜呑みにすることはないけれど、
彼らから学ぶべきことはたくさんある。

どんなに知恵が発達し、文明が進んでも、未知の領域を埋め尽くすことなどできない。
だから僕等はいつまでも無知なままであり、知恵を求め続ける。
僕等はいつまでも不完全な存在だから完璧なものへの憧憬を抱き続け、
愛を求め続ける。


さて、次はアリストテレスの章だ。