建築構造のはなし【マリオ・サルバドリー】

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建築構造のはなし―原理と応用 鹿島出版会299ページ
マリオ・サルバドリー著 望月重+北島哲男共訳


Why Buildings Stand Up
The Strength of Architecture
Mario Salvadori


大学の研究室助手さんの薦めで読みました。

オススメの本やDVD、展示情報などを教えてくれたり、
八王子への転学の相談にのってもらったり、仕事をふってもらったり、と
今大学で一番お世話になっている人の一人です。
ちょうどいま自分が興味あることについて、
さらにドライブをかけてくれるというか、もう一段上のスイッチを入れてくれるというか。

こういうフットワークの軽い人が大学の教授とかになってくれると
大学ももっと健全化して面白くなると思うんですけどねえ...


今、建築の構造デザインについて興味を持ちつつあるのですが、
この本はまさにその興味を加速してくれる。
八王子で構造デザインの授業を受けているのですが、
その講義内容ともマッチする。

エンジニアを経てデザインを学ぶことになった経緯。
それはあながち偶然ではなく、遠い回り道だったけど必然の道だった。


全ては繋がっている。
問題はそれに気付けるかどうか、ということではないでしょうか。


Tour_eiffel_de_nuit.jpg
(出典:Wikipedia)


この本は建築の構造技術を学ぶための入門書です。
1982年に発行されたものですが、今読んでも十分役に立つものだと思います。
構造というものは常に重力との戦い。
それは太古のエジプトのピラミッドから現在における超高層の摩天楼に至るまで、
その根本原理は変わらない。

建築技術は他の科学技術と同様着実にその歩みを進めてはいるものの、
そのスピードは他の技術に比べると緩やかであると言えます。
そこがまた僕の性分と合っているようです。


本書は以下のような目次で構成されています。


  1. 構造物
  2. ピラミッド
  3. 荷重
  4. 構造材
  5. はりと柱
  6. 家屋
  7. 摩天楼
  8. エッフェル塔
  9. 橋
 10. ブルックリン橋
 11. 形態抵抗構造
 12. 未完の大寺院
 13. ドーム
 14. ハギア・ソフィア
 15. テントと風船
 16. つり下げられた天空
 17. 構造物のメッセージ


構造を語る上で必要な理論が過去の建造物を例にして丁寧に解説されています。
入門書とありますが理数系が苦手な人にはちょっと分かりづらい部分もあります。
が、それでも摩天楼のような箱物からドームのような巨大建造物、
橋やタワーなどの構造がそのままその建造物の造形となるものまで
構造の面白さ、美しさに気付くことができる良い本だと思います。

建物の構造を考えるときに必要なことはその建物に重力がいかに働くか。
それを知ることによっていかにその建物を安定して建たせるか。
構造計算はときに難しい計算をしなければならないけれど、
基本的な目的としてはこれにつきると思います。

そして建物の各部には圧縮と引張の二種類の力しか働かない。
この二種類の力の相互作用によって座屈やたわみ、せん断などが生じる。
...というものらしい。


本書では豊富な過去の建築事例が紹介されていますが、
全部イラストなのがちょっと残念。
写真資料もあるともうちょっと分かりやすいかも。

また、完全に日本語化されているので、
日本でメジャーでない人物、建物の場合はネットで検索しても
見つからないものも少なくない。
また、発音の関係上日本語表記もいくつかのパターンがあり、
さらに検索を難しくしています。

日本語と英明表記を併記して欲しかったなあ。


まあそれでも良い本なので買いたいなあと思ったけれど、
ネットで検索する限りでは定価ではもう買えないみたい。
鹿島出版会のHPにも載ってない...

※後日Amazonにて安価にあっさり買えました^^

英明表記と写真を増補して再発行してくんないかな...


本書中で紹介されていた建造物の写真をネットでひろってきました。

7章 「摩天楼」

シカゴのジョン・ハンコックビルビル
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(出典:Wikipedia)

SOM(スキッドモア・オーウィングズ・アンド・メリル)の構造技術者、
ファズラー・カーン設計。


シカゴのシアーズ・タワー
666px-Chicago_Sears_Tower.jpg
(出典:Wikipedia)

こちらもファズラー・カーン設計。

二本角が好みなんですかね...


8章 「エッフェル塔」

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(出典:Wikipedia)

ギュスターブ・エッフェル設計。
エッフェルはNYの自由の女神の骨組みを設計した人でもあったんですね。


9章 「橋」

スコットランドのファース・オブ・ファース橋 
Firth _of_Forth_6.jpg


10章 「ブルックリン橋」

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(出典:Wikipedia)

ジョン・A・ローブリングとその息子ワシントン・A・ローブリングによる設計。
ここは実際訪れて写真も撮ったのだけど、カメラを地下鉄に置き忘れて...
無念。


11章 「形態抵抗構造」

サンフランシスコのSt Mary's Cathedral
640px-St_Mary's_Cathedral_-_San_Francisco.jpg
(出典:Wikipedia)

ピエール・ルイジ・ネルビ設計。
なんとなく丹下氏の東京カテドラルを彷彿させませんか?


12章 「未完の大寺院」

シャルトル大聖堂
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(出典:Wikipedia)

ボーヴェの大寺院
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(出典:Wikipedia)

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(出典:Wikipedia)


13章 「ドーム」

ローマのパンテオン
PantheonAerial.jpg
(画像出典:https://www.crystalinks.com/

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(出典:Wikipedia)

サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂(外観)
(本書では"サンタ・マリア・デ・フィオリー"と表記)
640px-Il_Duomo_Florence_Italy.JPG
(出典:Wikipedia)
View_of_the_Duomo's_dome,_Florence.jpg
(出典:Wikipedia)
640px-StMariadelFiore-inner.jpg
(出典:Wikipedia)

いわゆるフィレンツェのドウォーモですね。
フィリッポ・ブルネレスキ設計。


パリの工業と技術の中央博覧会(C.N.I.T)のドーム
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(出典:Wikipedia)

ゼルフス設計、エスキュラン構造設計。


14章 「ハギア・ソフィア」

イスタンブールのハギア・ソフィア(マヤ・ソフィアともいうらしい)。
皇帝ジャスティニアンの命によりアンテミアスが設計。
Hagia_Sophia_Mars_2013.jpg
(出典:Wikipedia)
Ayasofya-Innenansicht.jpg
(出典:Wikipedia)


15章 「テントと屋根」

ノースカロライナ州ローリーの「コー・パレス」、ノビッキー(ポーランドの建築家)設計
Dorton_Arena.jpg
(出典:Wikipedia)


本書中で気に入ったのだけど見つからなかった画像。

9章 「橋」より

ケニス・スネルソンのテンセグリィ彫刻


本書は以下のような言葉で締めくくられています。

このような高度な技術的分野が、美に対する私たちの直観的要求に寄与してきたこと、そして寄与し続けるであることを実感して驚いているかも知れない。美なくして生きてゆくことのできない私たちのような人間にとって、これは励ましの意見である。技術と芸術の分離は不必要であり、また正しいものでもない。前者は後者の敵ではないのである。言い換えると、技術はしばしば芸術の必須の成分であり、しかも、技術を人の役に立たせるために、芸術が技術を助けるということを理解することが重要である。建築と構造において、人類の最も基本的な肉体的そして精神的要求のいくつかを満たすために、科学と美を結び合わせて結婚させることが、本当の真実と言えよう。


今大学でデザインを学び、建築を学ぼうとする前に、
エンジニアとして14年間働いてきたことはけして無駄なことではなかった。
...そういわれている気がして救われた。