SD選書、今回は北欧の巨匠、アルヴァ・アアルト。
著者の武藤氏は1960年から1年間、実際にアアルトの事務所で働いた経験があり、
日本で最初のアアルトの解説本である本書を執筆することになって、
1967年に再びフィンランドを訪れ、アアルトの諒解を得て1969年に刊行されました。
つまりこの本はアアルトが存命中に記されたもので、
当然ながらアアルトの晩年については記述されていません。
例えばフィンランディアホールとか。
アアルト建築の外観は20世紀の三大巨匠コルビュジエ、ミース、ライトに
比べると見劣りする感は否めない。
しかし本書冒頭にはこうあります。
"建築-その真の姿は、人がその中に立った時にはじめて理解されるものである"
〜 アルヴァ・アアルト 〜
外観より中身。
空間を包むものではなく、包まれる空間。
アアルトの建築はどうやらそういうものらしい。
本書中にはアアルトの作品が写真で紹介されているのですが、いかんせん白黒写真なので分かりづらい。
そこでネットをググってみると、親切にもアアルトの建築写真ライブラリをまとめているサイトを発見。
どうやらタマビ(八王子キャンパス)のゼミらしい。
本記事中の画像はこのサイトから拝借しました。
[フィンランディアホール](出典:北欧建築ゼミ アアルト)
アアルトの建築は、コルビュジエやミースのように「人」ではなく、
ライトのように「自然」を基底においています。
ただライトはアメリカの自然、アアルトはフィンランドの自然。
そのロケーションの差が二人の建築を異なるものにしています。
ライトの建築は温暖な自然に対して開放的なものとなり、
一方アアルトの建築は極寒の自然に対して守りの建築となった。
本書ではそんなアアルトの建築を「内攻的」と表現しています。
具体的には庇はほとんどなく、壁と屋根の区別がほとんどない。
外見的にはこれといって目立つ特長がないけれど、
中に一歩踏み入れると彼が作り出した空間に圧倒される。
それを最も感じさせてくれるのが、ヴオクセニスカの教会(イマトラの教会)。
まず外観。
(出典:北欧建築ゼミ アアルト)
いたって普通ですよね。
それが中に入ると...
(出典:北欧建築ゼミ アアルト)
壁と屋根がシームレスに繋がっているのが分かります。
この教会は広い空間を用途に応じて2つの電動スライドドアで仕切り、
3つの空間に分割できるようになっています。
(出典:北欧建築ゼミ アアルト)
(出典:北欧建築ゼミ アアルト)
平面図。
(出典:北欧建築ゼミ アアルト)
外見より中身、といっても外観も素晴らしいものもあります。
[エンソ・グートツァイトビル](出典:北欧建築ゼミ アアルト)
「かもめ食堂」にもちらっと出てきます。
ただの白い直方体なのになぜか惹かれる。
港に入る船からの眺めを意識して設計されたそうですが、
当時は伝統的な街並みの景観を損なうものとして酷評されたそうです。
写真で見る限りけっこう良い感じで調和しているように見えるけどねえ...
続いてブレーメンの高層アパート。
[ブレーメンの高層アパート](出典:北欧建築ゼミ アアルト)
この写真からでは分かりづらいですが、建物の平面の形状が面白い。
...というわけでその平面図。
[ブレーメンの高層アパート:平面図](出典:北欧建築ゼミ アアルト)
ね、面白いでしょ。
日本にはアアルトの建築はないんだよなあ...
やっぱ中に入ってその空間を体験しなけりゃ
彼の建築を理解することはできないんだろうなあ。
ああ、やっぱフィンランド行きたい。
かもめ食堂を観たせいかもしれないけど、
あの穏やかで平和な雰囲気がなんかイイ。