画家と実業家の絆によって生まれた美術館【大原美術館・岡山県倉敷市】

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大原美術館に行ってきました。

岡山県倉敷市、美しい白壁の伝統的建造物が立ち並ぶ美観地区の中にあります。
大原美術館は日本ではじめて西洋美術を展示する美術館として1930年(昭和5年)に開館しました。
倉敷の実業家・大原孫三郎が画家・児島虎次郎に依頼して収集したコレクションが、
この美術館の作品群のベースとなっています。

同じように西洋美術を展示する美術館としては東京上野の国立西洋美術館がありますが、
こちらは実業家・松方幸次郎が収集した松方コレクションをベースに1959年(昭和34年)に開館。

国立西洋美術館は近代建築の巨匠ル・コルビュジエによる統一感あるモダニズム建築であるのに対し、
大原美術館は本館はギリシャ風、分館はモダニズム、工芸館は倉敷の伝統建造物風、と
割とカオス。

自分はどちらかといえば、国立西洋美術館のように明確なコンセプトの元、
統一感あるデザインのほうが好きですが、大原美術館のようなカオス感も悪くない。

やっぱりいろいろあるから世の中面白いのかな。


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[オーギュスト・ロダン『カレーの市民―ジャン=デール』(1884年−86年)]

イングランド王のエドワード3世は、クレシーの戦いで勝利を収めた後カレーを包囲、フランスのフィリップ6世は、なんとしても持ちこたえるようにカレー市に指令した。しかしフィリップ王は包囲を解くことができず、飢餓のためカレー市は降伏交渉を余儀なくされた。エドワード王は、市の主要メンバー6人が自分の元へ出頭すれば市の人々は救うと持ちかけたが、それは6人の処刑を意味していた。エドワード王は6人が、裸に近い格好で首に縄を巻き、城門の鍵を持って歩いてくるよう要求したのである。(Wikipediaより)


まずは一番目を引く本館。ギリシャ風。

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[オーギュスト・ロダン『洗礼者ヨハネ』(1880年)]

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本館の横には倉敷市所有の新渓園という日本庭園が広がります。

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その新渓園内に1961年に建てられた分館。設計:浦辺鎮太郎。

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モダニズム。


建物前に置かれている彫刻群。

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[(奥側)オーギュスト・ロダン『歩く人』(1907年)]

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[ヘンリー・ムーア『横たわる母と子』(1975年ー76年)]

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[木村賢太郎『祈り』(1955年)]


コの字型の白壁建物の工芸館。

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児島虎次郎記念館。

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大原家別邸の有隣荘。

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黄色の屋根が特徴的。
年二回の特別公開以外は入れません。


とにかくまあ、あらゆるジャンルが網羅されていてびっくり。
規模こそはメトロポリタンなどには遠く及ばないけれど、
日本の美術館の常設展示でこれだけのコレクションを見れるところはほかにないように思います。


一番の目玉はやはりエル・グレコの「受胎告知」。
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[エル・グレコ「受胎告知」(1590年〜1603年)](出典:Wikipedia)


ムンクは著名油彩画の版画バージョンが。

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[マドンナ(1895年)](画像は大塚国際美術館の陶板画)

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[吸血鬼(1895年)](メトロポリタン美術館で撮影)


今回一番のお気に入り。
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[ジョルジュ・デヴァリエール「ミュージック・ホール」(1903年)](出典:Wikipedia)

児島虎次郎の絵とはまた逆の意味で心奪われた作品。
その目は生きようとする野生の目か。
はたまた深い暗闇に囚われた魔性の目か。
芸術は本質を表現する「術」である。
技術がそうであるように、その術がどういうものであれ、
人間社会の形成に大きく貢献するものであり、ごく一部の嗜好者だけのものではない。
その術を良くするのも悪くするのも、受け取る人間次第であって、術そのものに善悪はない。
すごく気に入ったので、珍しくポストカードを買いたくなったのに、
この絵は一枚もなかった。
やっぱり題材が題材だけに人気無いのかなあ。


他人の作品ばかり集めて回ってるような輩に、ちゃんとした自身の作品が描けるのか?
...と半信半疑で児島虎次郎記念館に入ったのですが。

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[児島虎次郎『朝顔』(1916年ー18年)](出典:Wikipedia)

久々に心奪われる作品に出会った。
とくに良かったのが、「朝顔」の三部作。
とかく清楚でおとなしめのイメージの朝顔をこれだけ艶やかできらびやかに描けるのか、と。

夏休みという時期もあって、館内は大混雑だったけど、
見た目のカオスぶりの割にはきちんと導線設計がされているせいか、
意外にじっくり鑑賞することができました。

残念なのは館内の写真撮影がNGなこと。
(『朝顔』はネットから適当にひろってきました)
以前はOKだったみたいですが作品の前で記念撮影する輩が続出し、
作品鑑賞の障害になることが問題化したことで撮影禁止にしたそうです。
日本の美術への意識はまだまだ低くて残念です。
美大を卒業した学生が美術関係の仕事に就く割合が
少ないのもこの意識の低さにあるように感じます。
今は毎日来場者で賑わうこの美術館も、
開館当時は一日の来館者ゼロという日もあったほど、注目度は低かったそうです。

世相は常に正しきを即座に評価するとは限らない。
評価されるとしても、時間がかかったりする。
中には悠久の時を待たなければならないものもある。
生きていくためには、時に世相に従わねばならぬ時もある。
しかしそれが第一になってしまっては、自分が生きていく意味を見失ってしまう。
それならば、自身の正しきを信じて自分が作りたいものを作ってゆきたいものです。


【information】オフィシャルサイト

アクセス:JR倉敷駅から徒歩10分程度
入館料:大人1300円、大学生800円、小中高校生500円
駐車場:なし