三徳山三佛寺投入堂参拝でかいた汗を三朝温泉で洗い流した後、
西に移動して島根県安来市にある足立美術館へ。
本当はその前に鳥取県伯耆町にある植田正治写真美術館に寄りたかったけれど、
自宅を出るのが遅れたのと、思ったより長く三徳山に滞在してしまったため、
時間がなくなってしまい、やむなく今回はパスすることにしました。
三朝温泉から足立美術館までは山陰道でおよそ1時間半。
午後3時ちょっと前に到着して、閉館間際の5時近くまでおおよそ2時間、
名園と名画を堪能しました。
足立美術館は実業家・足立全康氏のコレクション約1500点を
展示する美術館として、昭和45年に開館。
特に約120点を数える横山大観のコレクションが有名で、常時20点前後を展示しています。
そのほか竹内栖鳳、川合玉堂、橋本関雪、榊原紫峰、上村松園、鏑木清方など
近代日本画壇の巨匠たちの作品がズラリ。
また、河井寛次郎と北大路魯山人の二巨匠の陶芸作品も充実しています。
本美術館の最大の特徴は五万坪に及ぶ広大な日本庭園。
「庭園もまた一幅の絵画である」という言葉が表すように、
全康自らが心血を注いで見事な日本庭園を創りあげました。
アメリカの日本庭園専門誌が行う日本庭園ランキングにおいて、
足立美術館は2016年時点において14年連続日本一に選ばれています。
※建物内美術作品は撮影禁止なので、庭園のみの写真となります。
2016年のランキング。
知ってるのは桂離宮、栗林公園、二条城二の丸庭園くらいで、
あとはあまり聞いたことのないところばかりですね...
この日本庭園ランキングですが、その選考基準は、
「歴史的価値、規模、知名度ではなく、庭園の質、庭園と建物の調和、
利用者への対応といったホスピタリティ等、
『いま現在鑑賞できる日本庭園としていかに優れているか』」
だそうです。
「歴史的価値」こそが日本庭園の最大の価値だと思うのですが、
「利用者への対応といったホスピタリティ」を優先させている点において
新しい庭園を積極的に評価していこうというねらいがきっとあるのでしょう。
まあ、それはそれで一つの有意義な選考基準でありだと思います。
一方で「庭園と建物の調和」という基準については、
この美術館については少し残念に感じました。
通常、日本庭園における庭園と建物の関係は、それぞれの境界をしっかり区切るのではなく、
縁側・縁石や障子戸などを使って境界線を曖昧にしてぼかしています。
そうすることで屋内と屋外をシームレスに繋げ、
庭という自然、ひいては宇宙との一体感を感じさせてくれることが、
日本庭園独特の世界だと思うのです。
とくに桂離宮のような池泉回遊式庭園はなおさら。
しかし足立美術館の建物には縁側は少なく(ほとんどないと言ってよい)、
建物と庭園は厚い壁で区切られ、鑑賞者はガラス越しに庭園を眺める。
一部外に出て直接庭園を眺められる場所もありますが、線ではなく点的で、
アングルも制限されたものになる。
せっかくの見事な庭園もその見せ方のせいで魅力が半減させてしまっているように感じました。
新館。
本館。
ごくごく一般的な箱型の建物。
箱型が悪いとは言わないけれど、この建物は鑑賞者を庭園から遠ざけてしまう。
また、建物内の導線もちょっと残念。
ただでさえ広い空間内で、同じ場所を行ったり戻ったりするのは、体感的にも疲れてしまう。
歓迎の庭。
苔庭。
枯山水庭。
亀鶴の滝。
実はこの滝は手前の枯山水とはかなり離れた距離にあり、
借景での見え方を計算して昭和53年に増設された人工の滝です。
見事です。
池庭。
白砂青松庭。
茶室 寿立庵。
誤解のないように念を押しますが、
ことさらこの美術館を批判したいわけではありません。
良い部分が目立つだけに、悪い部分も目立ってしまうのが残念なのです。
庭園そのものは見事です。
日本庭園の魅力の一つである借景が見事に生きていると思います。
美術館としての展示作品も一級品で申し分ない。
ただ、名園と名画が西洋的(合理的)にくっきり区分けされているのが残念。
もっと東洋的(感覚)的に融合しあっても良いんじゃないだろうか。
はたまた三次元の庭を二次元の絵画に解釈したのが自分の好みに合わなかったのだろうか。
借景は絵画のようで絵画ではないゆえの歪なのか。
展示空間がもっと東洋的になるならば、この庭園は日本一どころか世界一になるのにな。
...と一素人は思うわけであります。
14年連続日本一のこの美術館は、はたして100年後も日本一でいられるでしょうか。
【Information】オフィシャルサイト
開館時間:夏季(4月〜9月)9:00〜17:30 冬季(10月〜3月)9:00〜17:00
入館料:大人2300円、大学生1800円、高校生1000円、小中学生800円