隠し剣孤影抄が面白かったので続けて読みました。
山田洋次+藤沢周平三部作のうちの三作目「武士の一分」の原作である
「盲目剣谺返し」を含む全九編の時代劇短編集。
映画のタイトルを原作どおりにしなかったのは正解だね。
「武士の一分」という言葉は主人公新之丞が弱みに付け込み
妻を謀った男との果し合いの最中に思ったもの。
勝つことがすべてではなかった。武士の一分が立てばそれでよい。
譲らない心。
譲れない愛。
命をかけて守らなければならないもの。
それがない人間は幸せにはなれない。
隠し剣孤影抄に比べると主人公に平凡さを通り過ぎてより愚直さが
強調されているように思えました。
いちばんのお気に入りはやはり「盲目剣谺返し」でしょうか。
妻が不義を犯しているかもしれない、という疑念をもつ新之丞に
かつての自分を垣間見ているようで心苦しくなりましたが。
大切なのは起こった事実を正確に把握することじゃない。
信じ、信じているという行為を自覚し受け入れること。
今は心からそう思える。
そのほか「陽狂剣かげろう」「偏屈剣蟇ノ舌」が良かったかな。
「陽狂剣~」は狂者を演じていたつもりがついには本物の狂者になってしまう
というさまは「口にする言葉がそれを事実にする」というまさに最近痛感している
ことを再認識させられるし、「偏屈剣~」ではその偏屈な性格がゆえに周囲の
策謀にのせられ自滅していくさまは自分の天邪鬼な正確に警鐘を鳴らされた
気がしたな。
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