隠し剣孤影抄 【藤沢周平】

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藤沢周平の隠し剣シリーズ。
山田洋次+藤沢周平三部作のうちの二作目の原作を含む八編の短編集。
一作目「たそがれ清兵衛」は映画を観たけど原作はまだ、
二作目「隠し剣鬼ノ爪」は本書を読んだものの映画はまだ、です。
そして隠し剣シリーズは初読みです。

けっこう面白かったのは、小難しい藩政や剣の話だけではなく、
すべての物語に色恋沙汰があるからでしょう。
そして大人が愛すべき「平凡なヒーロー像」という藤沢文学の秀逸すべき
作風が存分に描かれているからでしょう。


完全無欠なヒーローは子供のためにある。
人生の酸いも甘いも知った大人にはときに醜く、ときに臆病だけれど、
決めるところで決める。そういう人間がヒーローに見えるのではないでしょうか。

僕のいちばんのお気に入りは「必死剣鳥刺し」。
叔父と姪という一線を越え、一夜限りの契りを結ぶも
叔父は果し合いの末帰らぬ人となる。
姪には子供ができ、叔父の死を知らぬまま叔父の帰りの待つ姿が痛々しい。

「宿命剣鬼走り」も良かったな。
想い人をめぐって争い、また政敵として藩政を争い、ついには
互いの家族の命までも失ってしまう。残された二人の行き着く先は地獄。
愚かだと知りつつも避け得ぬ運命に流されるさまがやるせない。

隠し剣鬼ノ爪も悪くはなかったけど、原作そのままでは
松たか子演じる女中きえの出番はあんまりないのでたぶん
映画では脚本がけっこういじられているのかな。
そういう意味では映像を観てみたい気はするな...