「エレメント」構造デザイナー セシル・バルモンドの世界【東京オペラシティ アートギャラリー】

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cecilbalmond_operacity_gate.jpg


バイトの面接からの帰り道すがら、
かねてより楽しみにしていたセシル・バルモンドの展示に行ってきました。
久々の東京オペラシティギャラリー。

来年度大学に残れるかどうかの瀬戸際に、
入場料1,000円はきつかったけど。
まあ、あせっても仕方がない。


昔から計算は苦手だった。
にもかかわらず、バリバリ理系の高専へ進学した。
美大に入っておきながら、建築構造へ興味を持った。
自ら苦労を背負い込むような選択ばかりしている気がする。

しかしその一方で、
その選択には自分の本質に関わるなにかしらの意味がある気もしている。


得意か苦手か、できるかできないかで選択するのではない。
自分の中の好きか嫌いか、という声によって選択すべきである。



[H_edge(ヘッジ)]


会場構成は大きく分けて3つ。
規模としてはそれほど大きいものでもなく、展示数も少なめだったけど、
そのぶん1つ1つの作品が濃密なものとなっていました。

最初のゾーンは、彼の構造理論、構造哲学を言葉やグラフィックで紹介。
「バナー」と称される迷路から始まる。
鮮やかなグラフィックや言葉が印刷された長い布地の垂れ幕が
天井から迷路のように無数に吊され、来場者の行く手を阻む。
行き止まりの袋小路にバルモンドの言葉が問いかける。

著書「informal」もそうなのだけど、
彼の言葉は1回聞いただけでは、なんのことだかピンと来ない。
何度となく読んでもまだピンと来ない。
それでいて、その言葉の奥に必ず本質が潜んでいるような気がしてくる。
だから立ち止まって何度も復唱してしまう。

迷路を抜けると待っているのは円環の垂れ幕。
ここにもバルモンドの言葉が溢れていて、
円の中心でぐるぐる回りながら彼の問いかけに耳を傾ける。
...やっぱりよく分からないのだけど。


そんな中でも心に残った言葉がある。

「外部に事実があるとするならば、
私たちは外部を省略していくことで、新しい内部を創生している」

...確かこんな風な言葉だったと思う。


「自分」という存在は自分だけで作られていくものではない。
外部とのつながりが、その内部を形成する。
その過程で外部を省略し、秩序立て、大事な部分を浮き上がらせることで
本質は形成される。


円環の垂れ幕を過ぎると、「レシプロカル・グリッド」と呼ばれるエリアへ。

それまで柔らかい布で構成されていたものが、
ここでは硬質なアクリルボードにバルモンド理論がプリントされている。


主に著書「Number 9」で紹介されているような理論が紹介されているのだけど、
数学に疎い自分にはやはりよく分からない。
ただ、思うのは数学が秩序を与え、美を与えている、ということ。
美は決して芸術家の感性だけのものではない、ということに気づかされる。

もちろん世界は秩序だけで構成されているわけでもない。
素数の発生パターンが未だに解読できないように、
世界には数学が踏み込めない領域がある。


ここで最初のゾーンが終わり、二番目のゾーンへ。
会場内は撮影禁止なので、ネットから探してきました。




だだっ広いスペースに展示物はおよそ4点ほど。

まず最初に現れるのが「H_edge(ヘッジ)」と呼ばれる構造体オブジェ。
この展覧会の一番の目玉。

無数のシャネルのマークのようなX字(H字?)状のプレートの両端が
チェーンの穴に挿し込まれている。

接着剤や固定工具の類は一切使われておらず、
チェーンへのプレストレスだけで自立しているのである。

その様子はチェーンとそのプレートがあたかも意志を持って
中空に「生えている」ような錯覚を与える。
もっといえば、中空に浮いているような気さえしてくる。
全体の形状としてはキューブ状で直線的なのに、かなり有機的。

「構造」がもたらすあまりの有機性に思わず戦慄する。

この感覚は実際にその場でその空間を体感しなければ分からないと思う。

事前に展示風景の画像を見たけれど、
二次元の写真からはその感覚は伝わってこない。

これこそが三次元の、構造の魅力ではないだろうか。


真ん中にはなにも置かれず、ただ床と壁に奇妙なパターンがプリントされている。
「プライム・フロア」「プライム・ウォール」と呼ばれるこのエリアは、
バルモンドの素数(プライム・ナンバー)の発生パターン究明への挑戦である。


そしてその奥には、「Danzer(ダンザー)」と呼ばれる、
白黒一対の四面体が置かれている。

フラクタルな川の流れに転がるフラクタルな巨石である。

さざ波立つ流れがふたつの石の下を流れる。

上方に目をやると、巨石は白い光や鏡のラインでひび割れていて、

その重層的な成り立ちを明らかにしている。

それぞれ4種類の四面体を組み合わせてできている。

縦横に走る線状の模様は内部の入れ子の構造が

緊密に結びついたエネルギーを示す。

(パンフレットより)

...まさに数学における枯山水である。


最後のゾーンはこれまでの実績紹介。

パネルと動画で紹介。

パネルだけの展示というものはえてして退屈なものになりがちだけど、
すべてのパネルを食い入るように見つめた。

普通、建築家と構造家との関係は、
建築家は日の当たる「陽」の存在なのに対し、
構造家は「陰」の存在、というイメージを与える。

しかし、バルモンドにかかると、陽と陰が反転してしまう。
創造の源泉を与える建築家でさえ、陰にかすんでしまう。
「イメージ」に構造によって命を吹き込む偉大さを感じさせる。


動画もけっこう長めだったのですが、やはり食い入るように鑑賞する。

僕はあまりCGイメージというものが好きじゃないけれど、
今回はそんなことお構いなしだった。
CGのキレイさではなく、形(構造)そのものが美しさを持っているからだろうか。


わりあい小規模の展示ながら実に2時間半以上も居座ってしまった。


会場外のミュージアムショップに展示してあったH_edgeのユニット。

cecilbalmond_h_edge.jpg


この展覧会用の図録というものが用意されていないのがすごく残念。
ショップにはa+uのセシル・バルモンド特集本や、
著書「informal」や「Element」が販売されていました。

しかしどれも値段が高くて手が出ない。
a+uの特集本くらいは買おうかな、と思ったのですが、
いかんせん2006年の発行なので内容が古い。
当時はスケッチだけの情報だったものが、
今ではキレイなCGになっていたり、実際建てられていたり。
この展覧会を見てしまった後ではどうしても内容に今一歩ものたらない。


いやー、スゴイ。
この人本当にスゴイ。


YouTubeに展覧会準備の動画ありました。