口紅から機関車まで【レイモンド・ローウィ】

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大学のデザインの先生の薦めにより大学の図書館で借りて読みました。
大学って本当にいい環境です。

世界で最初に最も成功したインダストリアル・デザイナー、
レイモンド・ローウィ自身による個人的記録。

20世紀初頭、まだデザイナーという職業自体が一般的でない時代。
冷蔵庫、自動車、機関車、タバコ、建物、空間、飛行機、果ては宇宙開発まで
ありとあらゆるもののデザインを行い、インダストリアル・デザインの礎を
作った人の記録だけにデザインをするために必要なあらゆるエッセンスが
この本には詰まっています。


しかし。
時代背景の違い、文化圏の違い、言語の違いが相まって
正直読みにくいことこの上ない。
文中にはジョークやユーモアがふんだんに盛り込まれているようですが
日本人の僕には正直笑うどころか理解することもできない。
せっかく素晴らしい記述があっても、その直後に理解不能なジョークが
あるとせっかくの感想も雲散してしまう。

二段組400ページにもわたるこの大記録を一度読み終えた後、
もう一度読み返してみたいとは思いませんでした。


しかしこれから自分がデザインをしていく上で
ヒントとなるエッセンスがたくさんあったことは事実。
そのことを忘れない上でも雲散した感動を再度かき集めてみたいと思います。


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(出典:Wikipedia)


まずは再認識させられたことは、
デザインはけして上辺を飾るためのものだけではない、ということ。
優れたデザインはデザイナー自身はもちろん、生産者、技術者、消費者など
そのデザインに関わる人全てに優れた機能を提供する、ということ。
そのデザインをするために他の要素を犠牲にしなければならないデザインは
けして「良いデザイン」とはいえないこと。


キーワードその1.MAYA段階

Most Advanced Yet Acceptable(最も前進した、しかしまだ受け容れられる)
最もよくデザインされたものが最もよく売れるわけではない。
利用するユーザの理解がなく、かつ旧来のものから大きく変化のあるものほど
ユーザはそういうデザインを敬遠する。

例えユーザが誤った理解を持っていたとしても、
デザイナーはそういったユーザをも無視して理想に奔ってはならない。
かといって理想を捨て、現状に甘んじるデザインをしていてもならない。
デザイナーが最も良いデザインを提供し、
ユーザーがそれを受け容れることのできる状態。
それをMAYA段階と呼び、デザイナーは現実の仕事をこなすと同時に
常に社会をMAYA状態へ導くための努力をしなければならない、とローウィは説く。


キーワードその2.内方傾斜(Tumble Home)

舟の舷先のように二本の両舷が並行するのではなく、
お互い内側へ傾きあい、舷の延長先では一点に集まるさま。
当時の主流であった角ばった直方体デザインからの脱却した
このデザインはローウイの代名詞にまでなったとか。
現在でも多くの流線型デザインはこの内方傾斜の原則に則っていますよね。


参考になることが多い一方で大いに反発するところが二点。

まず一点。
麒麟は機能的には優秀であろうが、醜悪である(P250)」

動物の機能は動物自身が決めること。
外観の美醜は個人の好みによるところ。
そして動物の姿形というものは我々人間が思う以上に「理由」があるもの。
人間が忌み嫌うゴキブリにだってその身体の構造には理由があるはず。
人間の創造物に対して美醜や、機能・デザインをあれやこれや言うのはかまわない。
でもそれ以外の自然が作ったものを人間があれやこれや言うのは
傲慢以外のなにものでもない。


もう一点は「エコロジー」の考えがデザインに反映されていないこと。
大量生産を最優先する考え方が目立っていた気がする。

まあでもこれは時代背景を考えれば仕方ないのかな。
この時代、地球は限りなく大きく、人類の行為が地球に深刻な影響を与えるなんて
想像もできなかったでしょうし。
これはこれからを生きる我々が考えていかねばならない命題ですね。


あらゆるものをデザインし、最後は「時間」までもデザインしようとする。
デザインの可能性を社会に広くアピールしたことは人類にとって大きな貢献で
あったと思います。

「不易流行」という言葉が最近僕のキーワードとなっています。
物事には変わってゆく部分と変わらない部分がある。
変わらないものは見えやすく、変わるものは見失いやすい。
僕は技術が「変わらない部分」で、デザインが「変わってゆく部分」だと思う。
だから技術は図式化や数値化などで多くの人がその形態を共通認識しやすい。
反面デザインは刻一刻変わっていくものだから表現が難しく共通認識しにくい。

でも変わる部分が必ず存在する以上、デザインも必要不可欠な要素なのです。
そのことをレイモンド・ローウィは最初に証明した人なのではないでしょうか。


しかしどんな名著も時代変われば色褪せるというもの。
著名なデザイナーが再度この原著を見直し、
余分なジョークは割愛し、写真はカラー化し、必要な箇所は解説付で
意訳してくれればこの本はまたとないデザイン入門書となると思うけどなあ...