奈良さんの映画が25日まで渋谷シネ・ラ・セットで上映されていると
聞き、急ぎ観てきました。
奈良さんはなんとなくテレビや雑誌などで目にしてたけど。
今回初めてその実像を垣間見ることができました。
映画は世界各地を奈良美智と豊嶋秀樹をはじめとする
大阪のクリエイティブ集団"graf"との共同行脚を追いかけるドキュメンタリー。
ソウル、ニューヨーク、ロンドン、東京、横浜、奈良の地元、青森...
世界各地で繰り広げられる奈良美智の絵とgrafが作る小屋。
そういえば原美術館でその小屋を見たけどあれもこの一環だったんですね。
独特の女の子や犬の表情。
以前は可愛らしい中にもどこか刹那的で、心に棘と刃を持っていて、
容易に触れがたい雰囲気だった。
それがこの映画の中で観る奈良作品は心なしか、
柔らかく、優しくなっている気がした。
[渋谷シネ・ラ・セット]
前方席が写真のようにテーブル席になっていて珍しい。
ただシートは固いので後方席の最前列に座りましたが...
幼いながらも親に気を使い、自分を押し込めてきた韓国の少女。
奈良さんの絵を観て少女は自分の想いを親に告げる。
「わたし、画家になりたい」
奈良さんの絵に少女はなにを見たのか。
「あの少女だけが僕の絵をちゃんと観てくれていた」
そう語る奈良の心中はいかほどのものだったのだろうか。
記者のインタビュー。
「貴方に影響を及ぼしたのは美大のどの教授ですか?」
「いや、僕に影響を及ぼしたの"孤独"です」
美大を卒業後すぐ、ドイツでの海外生活を12年。
言葉の通じない国での慣れない生活。
その孤独が彼を育てたという。
そう言われればあの刹那的な表情もなんとなく分かる気がする。
「自分のことを話すのは苦手なんです。
だから自伝を書いた。」
そう話す奈良さんの表情には12年の孤独な生活からくる
言葉でのコミュニケーションへの苦手意識を感じました。
なまじ言葉だけの表現で満足したりしてる人間には
芸術やデザインはできないのでしょうね...
無精ひげにくわえタバコ。
殺風景なアトリエに無造作に書きなぐるような描画法。
およそ世界的に有名な画家とは思えない質素な生活。
シュールで幻想的な画風からはかなりのギャップを感じましたが、
それは心の純粋さを守るための「殻」のような気もします。
日本に戻っていろんな人と仕事をするようになって、
奈良美智の絵は少しずつ変わってきた。
以前は描けなかった絵が描けるようになった。
反面、以前は描けていた絵が描けなくなった。
それが良いことなのか悪いことなのかは分からないけど。
...奈良自身がそう語っていた。
孤独を知っているから、人との繋がりの大切さが分かる。
奈良さんの絵が変わってきたのは至極当然なことではないでしょうか。
「不易流行」。
デザインの授業で教わった言葉ですが、
物事には変わっていく部分と変わらない部分がある。
双方の本質を把握できなければいいデザインはできない。
どんなに変わっていっても奈良さんの絵は奈良さんの絵だとすぐ分かる。
これぞ「不易流行」の理想のかたちではないでしょうか。
ますます奈良さんが好きになりました。
作品集の一冊くらい欲しくなったな。
昨年彼の地元青森県弘前市の酒屋のレンガ倉庫で開催された
「A to Z」には行きたかったなあ...
ちょうどその頃、東北に遊びに行ってたから知ってれば行ったのに~!