フランク・O.ゲーリー アーキテクチュア+プロセス gehry talks architecture + process

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大学の図書館で借りた本。

以前ゲーリーの映画を見て、ビルバオのグッゲンハイムにすごく惹かれました。


本書はこの10年間の主な作品24点をゲーリー自身の言葉で紹介するもので、
ゲーリーの建築哲学を垣間見ることのできます。

建物は直方体、という常識を覆し、曲面を多用し、
時にそれらが風にはためいているかのごとく建築に「動き」を与える。
(カラトラバのように実際に動かすわけではないのですが)


どの作品も一見してゲーリーの作品だと言うことが分かる。
どの作品にも「ゲーリーらしさ」が現れている。
それでいて、彼はクライアントの意向をとても大切にしている。

デザイナーにエゴはいらない、自己表現はいらない。
このような言葉をよく耳にします。
自分はそのことについてとても懐疑的です。
デザイナーは造形マシン、アイデアマシンじゃない。

エゴとエゴとの折り合い。
それがデザインであり、コミュニケーションである。


ゲーリーやリベスキンド、カラトラバのような建築家はそれを教えてくれる。



フランク・ゲーリーはザハ・ハディドやダニエル・リベスキンドなどの
曲面を多用した複雑な建築(デコンストラクティビズム)の旗手となった人です。
複雑な曲面の設計を実現したのがCATIAというコンピュータシステムであり、
元は航空機の設計に使われていたCADシステムを、
ゲーリーの事務所と共同で建築設計にも使えるように改良、改善した。

このシステムにより複雑な曲面をただ実現できただけではなく、
設計の初期段階から正確なコスト計算をはじき出せるようになった。

一見アーティスティックに見える建築も、
コストやクライアントの意向といった社会性について熟慮されているのです。

奇抜な造形をしているからといって、アーティスティックだからといって、
最初からそうだったわけではない。
ビルバオのグッゲンハイムの紹介の中にこうあります。

私も、もともとはシンメトリーとグリッドに熱中していた人間なんです。グリッドの上で設計していましたが、それを疑うようになって、結局はデザインを縛りつける鎖であることに気づきました。


ただ闇雲に自己主張すればいいわけではない。
過去を知り、基本を学ぶことで自分の立ち位置を知ることができる。

論語でいうところの 「子曰く、学びて思わざれば、則ち罔(くら)し。
思いて学ばざれば、則ち殆(あや)うし。」ですね。


本書で紹介されている作品中でとくに好きなものを以下に挙げます。
画像はおもにWikipediaWikimedia、pinterestなどから引っ張ってきてます。


まずはなんといってもビルバオのグッゲンハイム。

NYのライトのグッゲンハイムを多分に意識しているようなくだりがあります。

私から見ると、フランク・ロイド・ライトには、私が興味を持っているようなアートに対する関心がなく、彼はむしろそういうものを無視していました。だから、あのような、アートと対立する建物を作ったのです。私はクレンズに、建物は、あれほどアートに敵対する必要はないと言いました。しかしクレンズは、アトリウムそのものがアート作品であるべきで、アーティストの闘争心を刺激するものであるべきだ、という考えを持っていました。

自分はNYのグッゲンハイムには訪れたことがあります。
こちらのグッゲンハイムもビルバオと同じくらい好きです。
自分が感じる限りではそれほどアートと敵対しているようには見えず、
それなりに調和しているように見えましたけどね。

ビルバオ・グッゲンハイムの内部。

リチャード・セラの巨大な彫刻作品。
アートとの親和、というゲーリーの意志が反映されてるようです。


続いてウォルト・ディズニー・コンサートホール。
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(出典:Wikipedia)

外壁はステンレス・スティール。
ビルバオでは外壁にチタンを使っていますが、
これはその土地ごとで太陽光に当たり具合を考慮してのことだとか。
この辺に建物の外観の見栄えへのゲーリーのこだわりが見えます。

その内部。

外壁とはうって変わって内部は木をベースにしています。
この辺のコントラストもイイ。


チェコのナショナル・ネーデルランデン・ビル。
通称「踊るビル」(本書中では『ジンジャーとフレッド』とあります)。
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(出典:Wikipedia)

ゲーリーらしくアーティスティックで近代的でありながら
周囲の古典的な街並みの景観ともマッチする、という不思議な魅力。
それでいて、周囲の交通の導線などクライアントの社会的意向も満たしています。
自己と他者の相互幸福が十分に考えられた秀作です。


MITステイタ・センター。
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(出典:Wikipedia)

本書中の写真ではそれほど良く見えなかったのですが、
どうやらゲーリー作品の紹介でよく登場するねじれて崩れたビル群がこれらしい。
Wikipediaの写真で見ると、なるほど、美しい。


デュッセルドルフのオフィスビル。

元々はザハが設計するはずだったプロジェクトがザハの設計が難しくて実現せず、
ゲーリーに委ねられた作品。

プラスター、金属、レンガの異なる材料で仕上げられた三棟で構成。
巨大なスタイロフォームで外壁の型枠を作ることで低予算で仕上げたという、
コストパフォーマンスの優れた作品。


ハノーヴァー交通局ビル。通称ゲーリータワー。

直方体をねじるだけで造形的にこんなに美しくなるなんて。
カラトラバの作品にも同じようなものがありますね。
こっちはねじれがもっとスゴイですけど。


ヴィトラ家具美術館。

ここにはゲーリーの他にザハ・ハディドや安藤忠雄、アルヴァロ・シザなどの
著名建築家による建物があるんですよね。
行きたいなあ。


ゲーリーの家具ではダンボールで作られたEasy Edgesシリーズが有名ですが、
本書では曲げ木の椅子が紹介されていました。

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(出典不詳)


ゲーリーといえば魚のモチーフが有名です。

本書中ではワイズマン美術館でフィッシュランプが紹介されていました。

この魚のモチーフ、日本にもあるみたいですね(本書中では紹介されてません)。

Wikipediaによれば神戸港にある「フィッシュ・ダンス」と呼ばれるもので、
安藤忠雄が監修を担当しているとか。


ゲーリーやっぱイイ。