新住居での生活も慣れてきて、大学のセッションもまだ山場前...
ということでしばらく中断していた読書を再開。
最近はもっぱら建築系の本が多いです。
やっぱ建築が一番やりたいのかな。
建築系の読み物...というとやはりSD選書。
今回はフィンランドの建築家、エーロサーリネン。
著者は実際にエエロ・サーリネンの事務所で働いた経験のあるという穂積信夫氏。
エエロ・サーリネンはアルヴァ・アアルトと同じフィンランド人ですが、
エエロは13歳の時にアメリカに移住しており、
その活動の場はアメリカ中心で作品の多くもアメリカにあります。
アメリカのミッドセンチュリーを代表する建築家、という位置づけみたいです。
意外だったのはあのチャールズ・イームズと親友だったこと。
エーロの息子に彼の名前をつける(イームズ・サーリネン)ほどだったとか。
エーロの父親、エリエル・サーリネンも著名な建築家で、
親子そろって優れた建築家だったようです。
ちなみにエリエル・サーリネンの代表作はヘルシンキの中央駅。
日本の親子建築家、といえば谷口吉郎、谷口吉生の両氏が有名ですよね。
SD選書の写真は小さく、白黒なので様子が分かりにくい、ということで
作品集を探したところ、多摩美八王子の図書館に
建築と都市a+uの1984年4月臨時増刊号で
エーロ・サーリネンを特集したものがあったので借りました。
大きめカラー写真もさることながら、穂積信夫氏による解説や、
ケヴィン・ローチやシーザー・ペリなどエーロの弟子へのインタビューなど
内容は盛りだくさん。うーんこれは欲しいかも。
が、現在は絶版になっているようで古本屋で探すしかなさそうです。
エーロ・サーリネンの建築はどちらかといえば住宅よりも、
大学や空港など大きな公共建築を多く手がけています。
そしてその多くが彫刻的でモニュメンタル。
...まさに僕の好きなジャンル。すぐにこの建築家が好きになりました。
実際彼は若い頃彫刻を勉強していたそうですが、
彼の作品が多彩でかつ奇抜でモニュメンタルだからといって、
彼の根底にあるものは古きを嫌い、ただいたずらに新しきを求むといった心ではない。
エーロ・サーリネンの育ってきた環境と教育をみると、大変古典的です。フィンランドで育ち、パリで勉強し、この国では、ボザールの影響を受けたイェール大学で教育を受けているので、古典の素養は身についていました。今日のアメリカの建築家たちとは、育った背景が違うのです。(P186)
逆に古くから続く「良きもの」を大切にしようとするクラシカルなものだった。
エーロの作品群をネットで探してみました。
まず一番好きなTWA空港ターミナル。
(出典:Wikipedia)
この建物は4枚の天井シェルを2点支持で支えるというもの。
その外観だけでなく、その構造も挑戦的なのがイイ。
1962年の完成ですが、その約40年後の2001年には閉鎖になり、
一時は取り壊しの危機にあったらしいですが、
現在はその危機は免れて改装中、ホテルとして2009年にオープン...
らしいですが、実際どうなったんでしょうね。
空港といえば、もう一つのエーロの代表作、ダレス空港。
(出典:Wikipedia)
天井をハンモックのように吊しているのが特徴的。
こちらは現在も順調に稼働中のようです。
ちなみにこの空港は「ダイ・ハード2」の撮影で使われた空港なんだとか。
モニュメンタル、といえば宗教建築。
ノース・クリスチャン教会。
(出典:Wikipedia)
祭壇を六角形平面の中央に置き、その頭上に尖塔を置く、という造形。
建築の造形をただその建築物が持つ「機能」だけではなく、
建築物が持つ「精神」を表すべきだという彼の精神が表れています。
モニュメンタルの極致、といえばやはりこのセントルイスのジェファーソン記念碑。
(出典:Wikipedia)
(出典:Wikipedia)
造形的にはただのアーチ。
しかしそのスケールとれっきとした「建築物」であるところがすごい。
スパンと高さが約180m、アーチの断面は三角形でその内部は
斜行エレベータ+階段で頂上の展望台まで上れるようになっています。
シンプルな造形でもスケールを巨大にすることで、
それはモニュメンタルなものになる。
構造の面白さ、という点ではMITのクレスギィ記念講堂。
(出典:Wikipedia)
ドーム形状の建物はアーチで開口部をとるわけですが、
その開口部を広くとるために三点支持にチャレンジしています。
その記念講堂の横にあるチャペル。
(出典:Wikipedia)
円柱状の建物で、頂上部に彫刻家セオドール・ロザックによる鐘楼が。
ハリー・ベルトイヤーによる金色のふぶき。
シェルとは曲面が反対になる吊り屋根構造。
アーチの先端には彫刻家オリヴァー・アンドリュウズがデザインした照明が
つけられることで全体的にカブトムシのような外観に見えます。
多くの建築家がそうであるようにエーロも家具をデザインしてます。
というより、最初は家具のデザインからスタートしました。
[チューリップチェア](出典:Wikipedia)
確か卵型のチェアをデザインしてたよな...と思ったらそれは
「エーロ・アールニオ」で、サーリネンのほうはこのチューリップ・チェアが代表作。
本書の最後にエーロの講演の訳が記載されています。
そこに彼の建築のスタイル、建築の精神が読み取れる気がします。
彼が建築をする上で基本とする6本の柱。
2.構造の正直な表現
3.時代に対する認識
4.建築の個性的な表現
5.建築をとりまく環境との整合
6.建築の主題の徹底的な適用
かつてルイス・サリヴァンは「形態は機能に従う」と言った。
それはこの6本の柱のうち、最初の3本にあてはまります。
しかしエーロがとくに大切にしたのは後半3つ。
この3つは建築の持つ「精神性」を重視したものと言えます。
デザインされるものの中で一番スケールの大きな建築は
そのスケールゆえに越えるべき物理的な壁も大きい。
その大きな壁を越えてなお、伝えるべき明確なメッセージを伝える。
それが優れた建築というものではないでしょうか。
当時エーロの建築は一貫性がない、と批判されたものでした。
優れた建築家は一貫したアイデンティティがあるはずだ、と。
それも一理ある。
...しかし、本当に大切なのは「建築物」のもつアイデンティティであって、
「建築家」のアイデンティティではない。
それは結果的に、そして客観的に可視化されるものであって、
それを目標とするのではない。
エーロの言はそれを気付かせてくれる。
建築は単なるシェルターの役割をはたせばよいというものではない。人間の一生を意義あるものにするためであり、人間がこの世に生きているということの、犯し難い尊厳に応えるものでなければならない。
次はエーロの弟子でプリツカー賞を受賞したケヴィン・ローチの本でも読むかな...
と思いきや、a+uの1984年4月臨時増刊号の序文でエーロと時を同じくして
北欧から移住した建築家として紹介される「ルイス・カーン」に目がとまる。
...というわけで次回はルイス・カーン。
SDライブラリー14「ルイス・カーン建築論集」を読みます。