化学の結婚【ヨーハン・バレンティン・アンドレーエ】

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神秘主義、といえばはずせない一冊...らしい。

例によって中村先生のオススメです。


しかし例によって難解。そして謎だらけ。

発行当時は執筆者の名を伏せて匿名出版される。
著者がアンドレーエであることは彼の没後120年後に明らかになるのだけど、
くしくも「化学の結婚」の主人公、クリスティアン・ローゼンクロイツも、
死後120年後に、公開されるであろうとされている。
はたしてこれは単なる偶然なのか、仕組まれたできすぎの話なのか。

本書は表題の「化学の結婚」(1616)のほか、


  「薔薇十字の名声」(1614)
  「薔薇十字の信条告白」(1615)
  「全世界の普遍的か総体的改革」(1614)


の全四編が収められていますが、前者三編は薔薇十字の三大基本文書とされている。

しかし発刊当時は匿名出版だったため、
アンドレーエの単独執筆なのか、誰かとの共同執筆なのか、
それさえも諸説あるとか。


薔薇十字という秘密結社の存在自体が秘密のベールに包まれた、
正体のはっきりしない存在であるがゆえに謎が謎を呼ぶ。

巻末にはかなりのボリュームの解説があるけれど、
そのボリュームの大きさゆえに余計混乱してしまう。


薔薇十字とは何なのか?
「パラケルスス」(薔薇:魔術)とルター(十字:宗教)の統一なのか?
その統一が「化学の結婚」なのか?
統一に必要な材料が「哲学の石」「黄金の石」なのか?
だとしたらそれらの具体的な正体は何なのか?

あまりにも寓意的で、謎かけのように問いかけるから、
いかようにも解釈できる。


真実は一つでも、その解釈は無限にある。
だから同じ宗教でも宗派が生まれる。
宗教では満足できないから、秘密結社やフリーメイソンなどが登場する。


ある日、老修道士ローゼンクロイツの元へ天使が結婚式の招待状を届ける。
招待を受けた老修道士は、その結婚式に向かう道中になぜかつきかけられる
さまざまな難問を解決しながら、正体の分からぬ王子と王女の結婚を見届ける。

一番分からないのは最後の最後。

してはならぬタブーを犯したがために、
ローゼンクロイツは罰を受けることになったが、
結局罰を受けることなく、故郷に帰った...

理由を述べることもなく、
(ページの欠落上その理由が記述されない、という言い訳的な記述はあるが)
いかにもおざなり的な終わり方。


解説によれば、「化学の結婚」はアンドレーエが二十歳そこそこのときに、
よく推敲することもなく、気の向くままに、自動筆記するがごとく
一気に書き上げたものらしい。

そういう気まぐれさゆえに後代まで多くの読者が必要以上に
かき回されてはいやしないか。
...そんな気がしなくもない。


辛酸にみちた旅を何年も続け、誠実な情報伝達が不首尾に終わった後、彼は再びドイツに戻った。間近に迫った(改革派的)変化と(これに結びついた)驚くべき危険な闘争を目の当たりにして、彼はこのドイツをこそ心から愛した。技芸、それも金属変容の技芸によって世の注目を惹くこともできたではあろうが、あだなきらびやかさよりは天とその市民、すなわち人間のほうが、彼にとってはるかに重要であった。彼は手頃で清潔な家を建て、そこでこれまでの旅と哲学的探求の成果を反芻して備忘録にまとめた。この家では永らく数学研究をして過ごしたという。そしてソノ技芸ノ諸部分ヲコトゴトク駆使シテ美しい楽器をいくつも制作したが、のちに聞いたところによれば、わずかながらではあるがいまもそれらはのこっているという。(「薔薇十字の名声」 P194)