建築家の講義【サンチャゴ・カラトラバ】

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現状カラトラバの唯一の邦訳本。
MITでの3日間にわたる講義を半分程度抜粋して訳したものです。

作品の写真は小さく、数も少なく、しかも全て白黒なので、
カラトラバの作品を知らない場合はちょっと難しいかも。

オフィシャルサイトや洋書の作品集などでまずはカラトラバの建築を
見てから読むことをオススメします。

英語が分かる人はMITのサイトに講義全文と使用資料が
掲載されているので本書は不要になっちゃいますが、
英語が苦手な僕には今のところカラトラバの声が聞ける唯一の本、
...ってなわけで買っちゃいました。


奇抜でありながら周囲と調和するその外観。
絵のようでありながら実際に重力の場にさらされる建築物であること。
デザインだけでなく、建つためにその構造まで自ら考えるエンジニアであること。

...そんな建築家の根本にあるものは意外にも素朴なものだった。


本書ではMITでの3日間の講義を1日ごとに章分けして解説、
それぞれ

  1日目:「材料とプロセス」
  2日目:「力と形」
  3日目:「運動と形」

というタイトルとなっています。


1日目は家屋作品を中心、2日目は橋作品を中心に、3日目は総括的に、
解説されています。

建築はただ形を考えればいいのではなく、
建築を自立させるための構造や材料を考えなければならない。
だから形を考える人(建築設計家)と、構造を考える人(構造設計家)は
通常別々になるのですが、それをカラトラバは一人でしてしまう。
奇抜な建築の外観と構造と材料を一人で考え出してしまうところに
彼の非凡さが伺えます。

アーキテクト・エンジニアという肩書きもあながち彼の代名詞といっても
過言ではないのですね。

1日目と2日目の最初にそれぞれ構成の異なる積み木によりつるされた石の
模型を使って構造の説明をしているところに彼の地道な構造研究の様子が
伺えます。外見だけでなく、中身もしっかり考える。実に見事です。

一見ただ建っているだけに見える建物や橋も、
中ではさまざまな力線が動いている。
さまざまな力線のボリュームとベクトルのバランスをとることで
「積極的に」静止している。
まさにカラトラバの建築の美は「調和の美」なのだ。

奇抜に見えるデザインもそのモチーフとして参考にしているのは
人や自然といった有機体。
一見何の秩序もなく構成されているように見える有機体も
マクロ的にみれば幾何学的図形の集合なのだから、
それらをモチーフとしたカラトラバの建築が有機的になるのもうなずけますよね。

建築が有機的になることはこれからの建築にとってすごく大事なことだと思います。
フランク・ロイド・ライトも自らの建築を「有機的建築」と称していますし、
無機質的に高層化した建築は現在では環境的に問題視されはじめている。

有機体の集合である我々人間は環境的にも、精神的にも
やはり有機体に近いものに包まれるべきではないでしょうか。


人は土から離れては生きてはゆけない。
それが真理だと思う。
都市も無機質から有機質へと変容すべき時が来ている。