マーティン・ポーリー著 渡辺武信・相田武文訳
バックミンスター・フラー。
この本ではじめて彼の存在を知った。
建築家であり、デザイナーであり、科学者であり、思想家であった人。
人間が生み出し得るもので、価値あるものとはけして形あるものばかりではない。
この本はそれを教えてくれた気がします。
建築家としての彼はコルビュジエ、ミース、ライトの三巨匠ほどは有名ではないけれど、
彼が建築界に残した功績は彼らに匹敵するほど偉大なものだった...
[ジオデシック・ドーム](出典:Wikipedia)
[ダイマキシオン・カー](出典:Wikipedia)
フラーが残してきたもののうちで形として実現したものは少なく、
また世間からの評価も酷評されるか無視される、という冷たいものだったとか。
誰にでも受け容れることができるような「分かりやすい形」を提供することは
デザインをする上で重要な要素であることは分かる。
しかしレイモンド・ローウィも述べているように、
社会が常にタイムリーに正しい判断ができるわけではなく、
デザイナーが発見した真実に社会がついてくるまでには時間がかかる場合もある。
新しい真実が現状とかけ離れたものほど、多くの時間が必要なのだ。
まず先を行き、そして後から社会がついてゆくための指標を立てる。
社会がそれを理解するまでには時間がかかり、時代の先をゆく人は
それまでは社会から厳しい風評にさらされることになる。
フラーの素晴らしさはそれを理解した上で、実践したことだと思うのです。
本書の冒頭にそのフラーの姿勢がうかがえる記述があります。
「失敗とは人類が考えだした概念だ。自然には失敗というものはない。人間は自分の判断力に対する信頼を失う時、失敗するが自然はそういう失敗をしない。...(中略)...君は実は何も所有したことがないんだから、失うものは何もない。...(中略)...ただ自分のおろかな考えを失うだけさ。君は何も、だれも所有していない。ボートに乗るために海を所有する必要はない。飛行機に乗るために空を所有する必要はもない。われわれの住む宇宙では、真に優れた居住サービスの恩恵を受けるために何かを所有する必要は全くない。...(中略)...つまり所有はすでに時代遅れになっている。所有は全く間違った考えなのだ」
「失敗とは人類が考えだした概念。」
...すごく的を得た表現だと思いませんか?
1970年の時点ですでに「所有は間違っている」と言いきる先見性。
近年の会社組織のトラブルの多発、ソフトウェアのオープンソース化、
インターネットによるソーシャル・コミュニティの普及などを考えれば
彼の言ってることが正しいことだということが分かります。
ダイマキシオン・ハウス、ダイマキシオン・カーに代表される
ダイマキシオンシリーズ。
最小限のもので最大限のことを行うというジオデシック・ドーム。
マンハッタン島の東西を覆い尽くすような巨大ドームに
サンフランシスコ湾に浮かぶ巨大なピラミッド型の居住区。
東京湾に浮かぶ富士山よりも高いタワー。
一見奇抜で、夢物語のように思えるけれど、
そこには地球を所有しようとしない、人間として理想の生き方を追求する
フラーの想いが込められている。
どんなに優れた技術やデザインも、絶え間なく生み出されていくことにより、
当初はメインとされていたものもいつかはサブになる...という
文明の一過程を表現したephemeralization(短命化)という言葉。
圧倒的なスケールとそこに込められるフラーの人間の可能性への希望。
彼の提唱するデザイン科学には「形」という外見に囚われずに
人間が持つべき本当に大切なものを示唆するヒントがたくさんあるように思えます。
2013年にまちおこしの一環でドームハウスを手がける会社の協力を得て、
木のフラードームを作るワークショップを開催しました。
美しい造形を作り上げることで木の魅力を再認識してもらうことを目的とし、
概ねその目的は達成できたかな、と感じる一方で、
豊かな山林資源をないがしろにし、衰退してゆく厳しい現実も目の当たりにしました。
こんなとき、次の天才の言葉が身にしみます。
「失敗をしなくなった時にはじめて、成功するのだ。」
失敗をしない人間に成功はない。
失敗し続けることが成功への道のりなのだ。