マリオ・ジャコメッリ展【東京都写真美術館】

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[私には自分の顔を愛撫する手がない]


時はさかのぼってGW。
恵比寿の東京都写真美術館で開催されていた、マリオ・ジャコメッリ展へ行ってきました。

ブログをやりはじめてから、かなり写真を撮るようになったけれど、
基本的に写真に関しては素人。

ジャコメッリなんて知るよしもなく、最初はジャコメッティと勘違いしたほど。
大学の写真表現史という授業でレポート課題が出されなければ、
行くこともなかった展覧会。


picture_museum.jpg

giacomelli_chicket.jpg
[チケット]


...さて記事を書くことにしたものの、すでに20日以上も前のこと。
記憶も薄れつつあるので、ここはやっぱり提出したレポートを載せるのが一番かと。

レポートの課題は、

「気になる作品を1点ピックアップして1200~1500字程度短いエッセイ、物語を作成せよ」

...というもの。

以下提出したレポート。


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優れた写真家とはいえ現代ほど写真技術が発達していない時代。
リアリティという点においてはさしてクオリティが高いとは思えない写真の数々。
リアリストの自分にとっては写真そのものだけではあまり興味を惹くものではないのだが、
作品のタイトルに詩集のタイトルをつけるという独特の作風が
写真にストーリーを喚起するものとして興味を惹いた。
写真に活力を与えている気がした。

その中でも「夜が心を洗い流す」というタイトルがつけられた2枚の写真。
そのうちの1枚から強烈なインパクトを感じた。
そしてストーリーが浮かび上がった。

・・・
砂浜で戯れる人々、打ち寄せる波。
どこにでもありそうな海岸風景を上空から撮影した写真。
もう1枚の写真では砂浜やそこで戯れる人々は消え、
打ち寄せる波で一面覆われる。

白黒写真であるせいか、本来明るいはずの砂浜が、延々と続く闇のように見える。
そしてそこで戯れる人々はその闇から抜け出そうとする光の粒子のようにも見える。

延々と続く暗闇。
そこでは何も見えず、ただ静寂があるのみ。
そこには喜びもなく、希望もない。

誰もそんな世界を望まない。
誰だって喜びの世界に居たい。

しかし。
喜びは悲しみがあるから喜びを喜びとして感じることができる。
希望は絶望があるから希望を希望として感じることができる。
光は暗闇があるから光を光として感じることができる。
光を求めるには同時に暗闇も必要なんだ。
だから誰の心にも闇はある。
どんなに平和で平穏な暮らしをしていても暗闇はある。
いや、平和や幸福といった満ち足りた光があるからこそ暗闇がある。
不安やおそれ、猜疑心といった災いをもたらす暗闇が。

暗闇の世界は辛い。悲しい。虚しい。
ずっとそこに居ると暗闇の外に光があることを忘れてしまう。
だからそういう暗闇を洗い流すしてくれる場所が僕らには必要だ。
そこが夜という場所なんだ。
夜は一見暗闇の世界のように見えるけど。
それは心の闇を写してるだけなんだ。
そして夜はそんな心の闇を洗い流してくれるところなんだ。
そうやって僕らはまた明るい朝日を、明るい未来を迎えることができるんだ。
・・・

自分は写真の歴史や写真技術については素人で、
ジャコメッリの写真技術や彼が写真界に与えた影響などについては詳しく知らない。
たぶん優れた写真技術を持っていたと思われるのだけど、
たぶん技術だけでは時代を超えて人々の心を捉えるのは難しいと思う。

言葉、絵画、彫刻、映像、写真...
誰かに何かを伝えるとき、その手段を人間はたくさん持っている。
それでも、誰かに何かを伝えることは難しい。
いや、難しいからこそ人々は多様な伝達手段を編み出してきたのではないだろうか。
1つのメディアだけで何かを伝えるよりも、
複数のメディアをうまく組み合わせてほうが正確で効率よく伝わる。
より多くのものをより多くの人へ伝えられる。
さらには伝えるだけでなく、今あるものから何か新しいものが誕生させることだってできる。

ジャコメッリは写真技術はもちろん、
言葉と写真の組み合わせによる表現に優れた写真家だったのではないだろうか。

優れた写真家というものはただ目の前にある風景を、ただ目の前にある世界を
正確に切り取るだけではなく、その写真から、過去から未来へと時を伝って、
多くの情報やストーリーを見る人に与えることができるのではないか。
何か新しいものを生み出すことのできるものを作り出せるのではないか。

ジャコメッリのこの1枚の写真から写真の可能性の大きさを感じることができた気がする。

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レポート中でピックアップした「夜が心を洗い流す」という作品をネットでが探したのだけど見つからず。

そのほか気に入った作品。
(本展で展示されていない作品も含みます)


[男、女、愛]



[男、女、愛]




海岸を上空から撮影したモノクロ写真で、
今となってはこれといった写真には見えないんですけど、
自分としてはそこに言葉が添えられていることで
写真が生きながらえているような気がしたわけです。


最後に図録を買って帰りました。
giacomelli_book.jpg

白一色のシンプルなもの。

昨日の新日曜美術館でジャコメッリが取り上げられてたけど、
...よく分かんなかった。


写真ってまだまだ難しいものなのかな。