ルドンー秘密の花園【三菱一号館美術館】

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訪問日:2018年4月17日


おおよそ2ヶ月前の話。

東京ステーションギャラリーでの隈研吾展をあとにして、
三菱一号館美術館で開催中のルドン展へ。

ルドンの絵は過去2回のオルセー展(1回目2回目)などで、
何度か目にする機会がありましたが、単独での大々的な展覧会は今回がはじめて。

時代的には印象派の時代に生きた画家であり、第8回の印象派展にも出品しているものの、
印象派とは一線を画し、独自の路線を歩んだ。

風景画の巨匠に教えを受けるも、
彼が描く絵は風景と人間の内面とが混ざりあった独特の世界だった。

周囲に流されず、自分のアイデンティティを築き上げたという点で
どこか自分の心を刺激する画家の一人。


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本展は「植物」と「装飾」の二本を軸に以下の8章で構成。

 1.コローの教え、ブレスダンの指導
 2.人間と樹木
 3.植物学者アルマン・クラヴォー
 4.ドムシー男爵の食堂装飾
 5.「黒」に住まう動植物
 6.蝶の夢、草花の無意識、水の眠り
 7.再現と想起という二つの岸の合流点にやってきた花ばな
 8.装飾プロジェクト

以下順路に沿ってお気に入りの作品をピックアップ。
会場内は基本的に撮影禁止なので、画像はPinterestから。


1.コローの教え、ブレスダンの指導


[ロドルフ・ブレスダン『良きサマリア人』(1861年)]


1840年、南仏ボルドーに生まれる。幼少期はペイルルバードで過ごす。
1857年、植物学者アルマン・クラヴォーに出会い、科学・文学・哲学などを教えられる。
1862年、家族の勧めにより建築家を目指してエコール・デ・ボザールを受験するが失敗、
1863年、放浪の版画家、ロドルフ・ブレスダンと出会い、画家への転向を決める。
1864年、コローと出会う。
1878年、ファンタン=ラトゥールに出会い、転写法リトグラフを学ぶ。
1879年、最初の石版画集「夢のなかで」刊行。
1880年、カミーユ・ファルトと結婚。
1886年、第8回印象派展に参加、長男ジャンが生まれるが同年没。
1889年、次男アリ誕生
1890年、アルマン・クラヴォー自殺。
1900〜1901年、ドムシー男爵の居城の食卓装飾を手がける。
1903年、レジオン・ドヌール勲章を受ける。
1916年、第一次世界大戦で徴兵された息子のアリが消息不明となってしまい、
    行方を探しているうちに体調を崩してパリの自宅で死亡。

ルドンの画家としての本格的なデビューは39歳と遅く、
当初は仕事の多くが本の挿絵という白黒媒体であったことに加え、
最初に生まれた長男を半年で失うという不幸もあり、
その作風は鬱々とした暗いものであった。
その「黒の時代」の土台となったのが、
ブレスダンやラトゥールから学んだエッチングやリトグラフの技法であり、
植物学者クラヴォーから影響を受けた「植物」というモチーフであり、
コローの風景画である。
しかし次男アリの誕生を機にその作風は一変し、豊かな色彩を用いた明るいものへとなっていった。

画家の土台にあったものは同じなのに、
心が影に向いているか、陽に向いているかでこれほど画風がはっきり変わるものなのか。


2.人間と樹木


[キャリバン(1881年)]


[キャリバンの眠り(1895年)]

キャリバンはシェイクスピアの劇「テンペスト」に登場する怪物。



[ヤコブと天使(1907年)]

旧約聖書中に登場する逸話。
ドラクロワ、モロー、ゴーギャンなど、様々な画家がこの逸話を描いているけれど、
ルドンの描くそれは静寂に包まれている。


3.植物学者アルマン・クラヴォー


[ゴヤ頌 Ⅱ.沼の花、悲しげな人間の顔(1885年)]

人間の顔をした花。
この構図にルドンはどのような想いをこめていたのだろう。



[若き日の仏陀(1905年)]

東洋の思想にも少なからず興味があったのか。


4.ドムシー男爵の食堂装飾


[ドムシー男爵夫人の肖像(1900年)]

このほかルドンは男爵の子どもたちの肖像も描いているのだけど、
肝心のドムシー男爵の肖像は描いていないのだとか。
なんかこの辺に男爵に好印象を感じる。


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[グラン・ブーケ(1901年)]※画像は撮影コーナーのレプリカを撮影したもの。

三菱一号館美術館のコレクションの中核となる作品。


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[人物(黄色い花)(1900−1901年)]※画像は撮影コーナーのレプリカを撮影したもの。

ドムシー男爵の居城内の食堂にかかる16枚の装飾画。



[神秘的な対話(1896年)]

草原に立つ野外祭壇で頭を垂れる二人の女性。
「神秘的な対話」とは女性同士で交わしているのではなく、
祈りの捧げる「神」との対話なのであろう。


5.「黒」に住まう動植物


[起源 Ⅱ.おそらく花の中に最初の視覚が試みられた(1883年)]


[起源 Ⅲ.不格好なポリープは薄笑いを浮かべた醜い一つ目巨人のように岸辺を漂っていた(1883年)]


[ゴヤ頌 Ⅳ.胚芽のごとき存在もあった(1885年)]

眼球はなぜ見る者ではなく、上を向いているのだろう...



[陪審員 Ⅱ.入り組んだ枝の中に青ざめた顔が現れた...(1887年)]

陰鬱な表情の木の精霊。
樹木の恵みを忘れた現代人が見るべきイメージ。


6.蝶の夢、草花の無意識、水の眠り


[眼をとじて(1900年以降)]

ルドンの代表作。
いくつかバリエーションがあるなかで、蝶や花に囲まれた比較的カラフルなバージョン。
眼前の美しい光景を「眼」で見るのではなく、「心」で見る。



[オルフェウスの死(1905−1910年頃)]

ギリシャ神話に登場する吟遊詩人の死。
狂乱する女たちに惨殺され、首を切られて河に投げ込まれる。
同じテーマをモローが描いているけれど、
こちらが緻密な画力に圧倒されるのに対し、
ルドンのそれはただただ「静か」。


図録(2300円)。

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※ 本展はすでに終了しています。