大地と融合する建築・亀老山展望台【隈研吾|愛媛県今治市・大島】

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建築はそのようにして、様々に接合しうるはずのものなのである。もし、そのようにして、繋ぐことができたならば、例の設問に対しても、もっと違った解答をだせるのではないだろうか。建築は必要か不必要か。建てるべきか、建てざるべきか。あるいは建築か革命か。粗雑な設問を超えること。そのために建築は切断であるという前提を疑うこと。切断されたオブジェクトではなく、関係性としての建築について考察すること。まずはそこから始める。(隈研吾『負ける建築』)


今治市は大島の亀老山へ行ってきました。

かつて人間は自然と共に生きてきた。
文明が発達するにつれ、人間は自らの身を自然の猛威から守るために、
自分たちの住居や社会を自然から切り離した。

人間のその選択ははたして正しかったのか。
それは自然と社会との接点である建築に携わる者として、
建築家が背負うべき永遠の命題ではないだろうか。

隈研吾氏が手がけた亀老山展望台はまさにその命題を人々に問う建築のような気がします。


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亀老山展望台はその名のとおり、亀老山の頂上に設置された展望台です。
展望台といえば、通常は頂上大地の上にちょこんとのっけるものですが、
亀老山展望台は展望台が大地に埋め込まれており、
展望台そのものの外観形状というものがありません。
つまりは頂上の地形を再構成する形で作られているのです。

ここに隈氏の「建築は自然から切り離すべきか」という命題に対する取り組みが伺えます。


展望台駐車場にて。

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なんだ「展望台あるじゃん」と思いきや、これは隈さんの展望台ではありません。
後述しますが、これはこれで良い展望台なのですが。


展望台への入口。

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ちょっとした商店がありますが、この時点でも、展望台の全景は見えません。


この商店を通りすぎると、ようやく見えてくる展望台への通路。

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まずはこのベースグラウンドに出ます。

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ベースグラウンドから通路を眺む。

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このベースグラウンドは上方に設置されている2ヶ所の展望台A・Bへと繋がっています。

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最短であれば一本の直線で結べばいい話ですが、
曲がり角を複数設置することであらゆる方向を眺めさせながら、展望台へと導いてゆきます。
「展望」という行為を楽しませる工夫が伺えます。


デッキA。

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デッキAからの眺め。

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絶景かな、絶景かな。


デッキAから反対側のデッキBを眺む。

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デッキBには石のベンチが設置されています。

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デッキBからは来島海峡大橋が見えます。

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その手前には醜い南京錠の塊が。
心無いカップルの仕業かと思われます。


ちゃんと注意文まで貼られているというのに。

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本来なら、こういう注意文すら美しい景観を損なうものなのです。
こういう警告があるにも関わらず、エゴを押し通す身勝手さ。
まったく嘆かわしい限りです。


デッキBより来島海峡大橋が綺麗に見えるポイントがあります。

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それがここ。展望台のちょっと手前です。

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名物・藻塩アイスを食べながら地球の丸さと青さを体感する!

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隈さんの展望台は美しく、景観も申し分ないのだけど、
やはり日よけがないぶん、暑い季節には長く居ることができません。
そうなると、旧来の東屋タイプの展望台がやはり重要なのです。

すべてを満足させられる建築ってなかなか難しいですね...

トイレの上、というロケーションは若干気になるけれど、
やはり屋根の下で涼がとれる、というのは気持ちイイ。

気持イイからゴロンとベンチの上に横になって上を眺めると...

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広がる絶景!
こういうのもやはりイイ!

※2016年12月に再訪したとき、老朽化により東屋の展望台には登れなくなってました。
 また、隈さんの展望台自体も老朽化が進んでいるようでした。
 しまなみ海道が一望できる絶景スポットといいながらも、
 あまり丁寧にメンテナンスはされていないみたいで残念です...


東屋展望台から隈さんの展望台を眺む。

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やはり展望台の形は見えず、山の地形がそのままに見えます。

しかし、建築物の形が見えないからと言って、
自然から本当に切り離されていない、といえるのでしょうか。
展望台を埋め込むために頂上の大地の土をえぐり取った時点で、
自然から切り離しているのではないだろうか。

逆に形を見えなくしてしまったことで、
かえって自然からの隔離を隠蔽しているような後ろめたさを感じてしまうのは、
僕だけでしょうか...


そんな人間の思い煩いのそばで、気持よくトンビが上昇気流に乗っている。

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まあ、ある程度は流れに身を任せよ、ということなのかな。


【Information】

アクセス:四国(今治)側から しまなみ海道大島南ICより車で10分
     本州(尾道)側から しまなみ海道大島北ICより車で20分

入場及び駐車場:無料