薄膜コンクリートシェルの大家・ハインツ・イスラー【Heinz Isler】

[ダイティンゲンのサービスエリア](出典:Google マップストリートビュー、撮影日2014年)


先日読んだ佐々木睦朗氏の本で知りました。

ハインツ・イスラー。
1926年スイス、チューリッヒ生まれの建築構造家。

トロハの影響を受け、ガウディの逆さ吊り理論を用いて1400ものシェルを作ったといわれる。

Wikipediaも英語版ドイツ語版くらいしかなくて情報が少ないのだけど。


代表作であるダイティンゲンのサービスエリアの写真はやはり僕を惹きつける。


...これこそ本質的な構造美だと。



[ダイティンゲンのサービスエリア](出典:Google マップ、撮影日2014年)

Googleマップの航空写真で上から眺めると、
エレベータの上下マークのような2つの三角形が並んだ配置。


しかしストリートビューはスゴイね。
アングルはある程度制限されてしまうけど、
まるで現地で眺めているような景観を見ることができるんだから。

[ダイティンゲンのサービスエリア](出典:Google マップストリートビュー、撮影日2014年)

下から眺めると鳥が翼を羽ばたいているようにも見えるあたりは、
サーリネンのTWAターミナルに似ている気もする。


そのほかの作品。


しかし世界はなぜこんなにもキューブリックなビルで溢れてしまったのだろう。
世界にはキューブ以外にもこんなにも素晴らしい曲面があるというのに。

こうなった大元には間違いなくミースやコルビュジエが居るんだろうけど、
彼らを責めるわけにはいかない。
実際彼らが作ったキューブは美しかったのだから。

その後の後人たちが、
ドミノハウスに代表される近代建築の効率化の面だけに着目して
安易にキューブに走ってしまった。

経済的にも、スペース管理の観点からも、
キューブは確かにスマートな造形なのかもしれないけど。

人類が幸福に生きていくためには、はたしてそれだけで良いのだろうか。
今の社会が抱えるさまざまな弊害を鑑みていると疑問に思わざるをえない。
ビルの造形を都市問題に直結させるのは短絡的かもしれないけれど、
あながち的は外れていないと思う。


どうして最近は独創的なRCシェルの建物が建てられなくなったのだろう。
かつての丹下さんやキャンデラトロハ、イスラーのように。
いくら建物の規模が大きくなったとはいえ、
用途によっては現在においても中規模の建物需要もまだまだあるはず。
RCシェルってそんなに難しくて非効率的なのだろうか。

かつてキャンデラはコンピュータがそんなに発達していない頃に、
それほど難しい数学理論も用いずに、自身の経験と直感だけで
あれだけの美しいRCシェルをローコストで作ったという。

あの時代にできて、なぜ現代でできない(やらない?)のだろう。
それだけキャンデラが天才的だったのだろうか。

ヒモを垂らしてえられる曲線には純粋な引張力が働き、
それを逆さにすると純粋な圧縮力が得られる、という
ガウディの逆さ吊り理論にしても、力学的には理想でも、
作りやすさ、という点では現代の技術力を持ってしても
未だ完成しないことを考えればやはり非効率なのだろうか。


課題で建築模型を作るようになって、
いかに曲線を作るのが大変かが分かるようになった。
模型のスケールで作るのが難しいものは、
実際のスケールで作るのはさらに数段難しくなる。


でもやっぱり。

"Cube is all."はやはり病的だ。どこかおかしい。
キューブそのものが悪なのではなく、キューブしかないことが悪なのだ。
現在のマンション群を見ていると、
人々は建築を軽視しているように思えてならない。

人はそれぞれ個性があって、それぞれ最適な距離というものがある。
それを均一的な空間に押し込めようとすること自体無理があると思う。
広さや間取り、設備、装飾を多少カスタマイズするだけでは
個性に対応しきれないと思う。


建築の良さは建築家だけが分かっていれば良いものじゃない。
作る側はもちろん、作ってもらう側も建築の価値を理解してくれなければ
建築業界全体は前進しない。

人々がもっと建築の大切さに気づいてくれたら。
そうすれば作りにくさに対する理解も進んで、
少しは経済的な問題も解消されるのではないだろうか。
教育機関や研究機関による研究が進み、技術的な解決も進むのではないだろうか。

その意味において、建築家はやはり建物を設計するだけが仕事ではない。
建築によって実現される空間の価値を伝えることも大切な仕事ではないだろうか。
建築を学びはじめた若輩者の学生が言うことに説得力なんてないけど。


今は人に説得するのではなく、
自分自身を納得させるために。


...こんな疑問を念頭において今度の課題に取り組みます。

ガウディの逆さ吊り理論もトライしてみたいけど。


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7人の構造家がキャンデラを語る本...のかな。
なにしろ洋書なんで内容はよく分かんない。
この7人のうちの一人としてイスラーが登場します。


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唯一のイスラーの専門書なんでしょうか。
やはり洋書なのでよく分からないけれど。