ユスモク木工先進地視察【由布院】

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ユスモク第1回目の木工教室が終わった翌日。

木工先進地視察第二弾として大分県は由布院の木工房へ視察に行ってきました。
木工クラフトによる地域振興の第一人者の方がおられる場所で、
元々一番最初に視察する予定の場所だったのですが、
先方の都合により視察がかなわず、第一弾は高知県馬路村へ行きました。
まあ、それはそれですごく収穫がありました。

今回、ECPR(えひめ地域政策研究センター)の方の仲介で、
念願かなって訪れることができました。
実は四国同様、九州にもほとんど行ったことがなく。

八幡浜港からフェリーに揺られること3時間。
別府港に上陸。
港には巨大なフェリー船「さんふらわあ」が停泊していました。
湯けむりたなびく坂の町を通りすぎて山間の温泉地へ。

由布院は若者と外国人旅行者であふれるモダンな温泉街でした。


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[別府港に停泊するフェリー・さんふらわあ]


今回の視察では3箇所の工房を回りました。
木工クラフトによる地域振興の第一人者である時松辰夫さんが主宰する
「アトリエときデザイン研究所」とそのお弟子さんが経営する工房2箇所。


まずは由布院の温泉街からちょっと離れた山の中にある、
時松さんのお弟子さんが主宰する「匙屋」へ。

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お店の名前のとおり、ここではスプーンやフォークなどの木製の「匙」を作っています。

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自分のオリジナルのデザインを形にするためには、
既製品の道具だけではなく、専用の治具の開発が必要だとか。

意外だったのは、これだけ山の中にありながら、
材料の一部(ミズメ)を県外から購入していること。
地元の材料を生かすのもなかなか大変なんだなあ、ということは、
ユスモクでの活動をしていても痛感しています。
目の前に山ほど材料があって簡単に手に入るとしても、
それが簡単に加工できるわけではないし、最適な材質とも限らない。
そこにモノづくりと地域活性化の間のジレンマがある。


続いて温泉街のはずれにある「箸屋一膳」へ。
こちらも時松さんのお弟子さんのお店。

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こちらは逆に地元の材を上手く活用してモノづくりに活かしています。
ただし、収集した材料をじっくり時間をかけて乾燥させるなど手間もかかっており、
箸というスケールの小さなものだからこそできることだと言えます。

ユスモクも現在は地元の間伐材、工事廃材を収集したものを使っていますが、
曲がりや反りがあるものも少なくなく、
そういう材は加工の幅がどうしても狭くなってしまいます。
直線を機械的、と言って毛嫌いするのは簡単ですが、
いざ自分でモノを作ってみると、直線がいかに加工において扱いやすい形状であるかを
実感せずにはいられない。

不揃いの曲線たちをデザインの力でなんとか有効活用していくことが、
ユスモクの課題といえます。


オーダーメイドにより自分だけの箸も作れます。

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その他に箸づくり体験教室も実施していて、自分自身で自分の箸を作ることもできます。
この体験教室の利用客も意外と多いのだとか。
モノを売るのではなく、モノを通じて「魅力」を売る、という意識が大切。

いろんな種類の材の箸が並んでいるさまは見ているだけでも面白い。

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自分用にケヤキの箸を一膳購入しました。
これで千円也。
これを高いと思わせない工夫が大事。


翌日。メインのアトリエときデザイン研究所へ。

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お店の一角にて、時松さん自ら対応していただきました。
なかなかのご高齢ですが、これまでの長い経験に基づく信念とでもいうものを、
淡々と語っていただきました。

食器に使われる安全な塗り薬や接着剤が意外とないのが驚きでした。
OEMとか通販ではなく、店頭販売で売上の大半を占めているのだとか。
壊れても持ち込めばきちんと修理を行うのだとか。
良いものはお金を払ってでも長く使い続けたい。
商品の回転効率ばかりを求めてすぐ壊れるものばかりを作る現代の風潮は
モノづくりの魂を失っている。

良いものはきちんと経済を回す。
良いものを作り、きちんとその良さをアピールする。
良いものを長く使うためには長く使うためのフォローシステムを構築する。

木工のみならず、モノづくりビジネスの基本中の基本とでもいうべきものを、
教えていただいた気がします。


思わず欲しくなる靴ベラ。

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思わず欲しくなるマガジンラック。

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洗濯かごとして使う人もいるとか。
モノが良ければ、使い方はユーザがいかようにも工夫し、応用する。
「機能」を提供するのではなく、「魅力」を提供することを意識する。
そのための手間を惜しまないこと。


シンプルなミズメのお椀。

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どこにでもある形だけど、いつまでも見ていたい。いつまでも触っていたい。
そんな「用の美」がここにはある。


檜のランチボックス。

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いわゆる「曲げわっぱ」。
曲げ加工にも挑戦してみたいけど、なかなか敷居が高そう。


松の楕円盆。

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円であれば木工ろくろなどで簡単に加工ができるのだろうけど、
楕円はなかなか手間がかかるんだろうな。
その「手間」をいかにユーザに「魅力」としてアピールするか。
そこがデザインのしどころなんだろうな。
楕円もバロックの基本形だけど、今となってはアピールとしては弱いのかなあ。


由布院からの由布岳の眺め。

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二日目は雪も降って、雪化粧。

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由布院のメインストリート。

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残念ながらクラフトショップは閉店時間で入ることができず。


由布院の一番の高級宿、玉の湯ホテルの木馬。

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今回宿泊した宿の金属の鳥。

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由布院は昔ながらの情緒あふれる温泉街、というよりは今風のモダンな観光地でした。
車で動きまわるには道がちょっと狭いかな。
由布院の昔を知らないのでなんとも言えませんが、
昔ながらの温泉街、という感じではありませんでした。
観光地として生き残っていくにはある程度こういう趣向もやむを得ないのかもしれませんね。


こう行った視察はノウハウを学ぶというよりも、刺激を受けるという点で有効なのかもしれません。

自分が本当にやりたい、と思うことを具体化すること。
「どうやるか」じゃなくて「なにがやりたいか」。
そこが大事な気がします。

やりたいことが見つかれば、自ずと方法は見えてくるのだから。
自分でやるにしろ、他人の力を借りるにしろ。