「お前はいったい何がしたいんだ?」

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祖父が唯一の家族だった。その寝顔を見ながら、思わず涙腺が刺激され、涙がこぼれ出そうになった。母は最初から不在で、父はずっと他人だった。(辻仁成『冷静と情熱のあいだ』)


僕の場合、「唯一の家族」は祖母だった。
祖母が母親代わりに僕を育ててくれた。
ただ、その祖母と僕は血が繋がっていない。

叔父、祖父、父と自分に血縁が近くなっていくほどだめな人間になる。
叔父は僕が幼少の頃は叔母と共によく面倒を見てくれた。
叔父は僕の理想の「大人」だった。
容姿端麗、スポーツ万能。
キレイで気だての良い奥さんがいて、3人の子供を立派に育て上げた。
ただ、尊敬できる理想の「大人」だけに苦手な存在でもあった。
叔父は心を割って話せる「親友」ではなかった。

祖父は昔ながらの「亭主関白」だった。
家事はいっさいせず、酒に酔ったときだけ饒舌になり、説教した。
身近にいながら遠い存在だった。

一番血が濃い父はさらに僕の近くにさえいなかった。
まさに「他人」だった。
一番近くにいるべき存在なのに。


そんな男の血が僕の中に流れている。
それが僕を憂鬱にさせる。
一歩前に出ることを躊躇させる。

深く考えず、波長の合う人と結婚した。
周囲からはおしどり夫婦と言われた。
でも気付けばいつの間にか僕らの波長は修復できないほど、ずれていた。

離婚の前後で一人の女性と出会った。
気だてが良くて素敵な女性だったけど、彼女も傷を抱えていた。
当時の僕はその傷を癒してやれるだけの余裕がなくて、悲しい別れ方をした。
何度も「大丈夫だよ」と声をかけたけど、その声は彼女に届かなかった。
...そして僕はさらに臆病になった。


祖母からは「あんたは自分のことしか考えない子だ」とよく言われた。
子供の頃はそんな祖母の言葉に猛反発していたけど、
今思うと祖母が言うことは正解だった。

とりたてて特徴のある子供じゃなかった。
手先が不器用で、運動神経もそれほど良くなかった。
ちょっと記憶力が良かったおかげで勉強はそこそこできたけど、
それを実地に生かす知恵は持ち合わせていなかった。
その知恵足らずなところは今も変わらない。

平凡な人間だと思っていたのに、
気付けば平凡な人間が刻むリズムを自分は刻めていないことに気がついた。
昨日まで一緒になってはしゃいでいた後輩が、
いつのまにか責任ある大人になり、良き親になって僕を追い越していた。
そして僕は周囲から取り残されていった。

けしてモテるほうではないけれど、
それなりに生きてくれば自分に好意を持ってくれる人間には出会えるもの。
その誠意に誠意を持って応えさえすれば、自分も「家族」を持てるはず。

この3年にそんな好意を持ってくれる人に3人出会えた。
(...と自分で勝手に思っているだけかもしれないけど)
でも僕はいずれもその思いを受け入れられなかった。


グループ行動は苦手だけど、けして一人きりで生きたいと思っているわけじゃない。
温かい家族が自分も欲しい...そう思っているはずだ。

でも気付けば僕は孤独に向かっている。

周囲が僕を受け入れようとしないのではなくて、
僕が周囲を受け入れようとしない。


  「お前はいったい何がしたいんだ?」


...気付けばそんなことばかり考える日々。
考えるばかりで手が動かない日々。


自分の不甲斐なさを血のせいにする自分が情けない。