巨匠ピカソ 愛と創造の奇跡/魂のポートレート【国立新美術館/サントリー美術館】

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[2館共通公式図録 2800円:表側]

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11月最後の日曜日。

ピカソ展に行ってきました。
国立新美術館とサントリー美術館をはしご。


まずは国立新美術館。
日曜日なので混雑を予想して閉館2時間前の16時に入場。
まあそのおかげというか、人はやっぱり多かったけど、
予想してたよりは楽に観れました。
そして予想よりも展示が少なかったのか、1時間程度で見終えました。
こちらは会場全体は明るいのですが作品への照明は暗めでした。
(一部影が作品に影響するものはのぞく)

次にミッドタウン内のサントリー美術館。
国立新美術館に比べてこちらは日曜日だというのに人は少なめ。
展示規模はさらに小さくて鑑賞時間は1時間弱。
こちらは逆に会場全体は暗く、作品への照明は明るめでした。


世界一有名な画家、ピカソ。
しかし多才がゆえの多彩な作品ゆえに、
世界一理解が難しい画家でもある。


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[2館共通公式図録 2800円:裏側]


国立新美術館側。
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サントリー美術館側。
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[ピカソ展チケット: 赤が国立新美術館、青がサントリー美術館]

はしごする場合、チケットの半券提示で200円割引になります!


1年生に続いて2年生でもつい先日中村先生の授業で
ピカソを学習したので、予備知識はばっちりでした。
それもスムーズに鑑賞を楽しむことができた一因かもしれません。

授業のスライドで見た作品も多くありました。
やっぱり実物の迫力は違います。


本展はパリのピカソ美術館改装にあたってマドリッド、アブダビに続いて
世界巡回しているもので国立新美術館では「愛と創造の奇跡」、
サントリー美術館では「魂のポートレート」というテーマがつけられていますが、
個人的には展示のボリューム以外はそれほど差は感じませんでした。
どちらも良い作品が来てると思います。

MoMAに展示されている「アヴィニョンの娘たち」の習作や、
ドラ・マールが撮影したゲルニカの制作風景写真、
フランコを風刺した「フランコの夢と嘘」、
ミノタウロスをモチーフにした一連の作品群など
貴重な作品を見れたのも良かった。

お気入りの作品をピックアップ。
(会場内は撮影禁止なのでpinterestから持ってきました)


青の時代がはじまるきっかけとなった親友の死。

[カザジェマスの死(1901年)]


青の時代から...

[自画像(1901年)]


[ラ・セレスティーナ(1904年)]

ばら色の時代へ。

[二人の兄弟(1906年)]


[女の胸像「アヴィニョンの娘たち」のための習作(1907年)]


ピカソを愛した女たち。


[肘掛け椅子に座るオルガの肖像(1918年)]

ピカソの最初の妻。
ピカソの心がすでに自分にないことを知りながら死ぬまでピカソを束縛し続けた。



[膝をかかえるジャクリーヌ(1954年)]

ピカソの二番目の妻。ピカソの晩年を独占する。



[ドラ・マールの肖像(1937年)]

「泣く女」とは打って変わって澄まし顔。
ゲルニカの制作過程を写真に記録するなどピカソの芸術の良き理解者でもあった。



[マリー=テレーズの肖像(1937年)]

オルガとの不仲の際に愛人関係となるも、ピカソはすぐにドラ・マールという新しい愛人を作る。



[フランソワーズの肖像(1946年)]

唯一「ピカソを捨てた女」。


祖国を苦しめるフランコを痛烈に風刺。


[フランコの夢と嘘 第1葉(1937年)]


[フランコの夢と嘘 第2葉(1937年)]


自らの内部に宿る狂気を怪物として表現したミノタウロスシリーズ。


[女を陵辱するミノタウロス(1933年)]


[ヴェールをかざす娘に対して、洞窟の前のミノタウロスと死んだ牝馬(1936年)]

影のようにつきまとうオルガの手、
怪物と化したピカソによりその生命を奪われたマリー=テレーズ、
それをヴェールでかざしてみているドラ・マール...
自分を取り巻く女たちを弄びながら、同時にその様子を冷静に観察し、
表現するピカソの残酷さ。


恋多き天才の人生は恋少なき凡才には理解できないものかと思いきや、
天才も凡人も苦しむところはどうやら同じのようで。

自分の内部をいかに表現し、多くの人に共感してもらうか。
ピカソはその絵画技法はもちろん、オーソドックスな古典から
シュルレアリスム、キュビスム、新古典主義など実に多くの手法による
「多彩さ」が人々の共感を呼んだのではないでしょうか。

ただその強烈すぎる個性もさすがに歳には勝てないのか、
というよりその個性の強さゆえなのか、
晩年は少し元気がないように感じました。
それでも普通の老人に比べればエネルギッシュなんですけどね。
晩年は構図はそんなに変わらないのですが、色彩が淡くなって、
おとなしめの緑系統のものが多いように感じました。


絵を見るとき、画家がどのような思いでその絵を描いたのか、
その絵でなにを伝えたかったか。
それを正確に把握することは大切なことだと思う。

でもそれがただ一つの「正しい」絵の見方じゃない、と最近思うようになった。
それどころか、それは本当に正しい絵の見方なんだろうか?と思うこともある。

例え画家が直接言葉でその絵の説明をしたとしても、
それが真意とは限らない。
それ以前に言葉で全てを説明することはできない。
だから人は絵とか彫刻とか、音楽など言葉以外にも自己表現をする。
それにしても誰も自分のエゴの外に出れない以上、
完全な真意など作者以外には分からない。

...それでも人は「共感」したがる。

本当に正しい絵の見方とは、
自分なりに素直に納得できる理由や方法で絵に共感する、
ということではないだろうか。


なんで人や事物を、分解したりねじ曲げたりして
わざわざ分かりにくくするのだろうか?
ただその絵になにが描かれているか、どんな手法で描かれているか、を
知るだけではその絵を良いと思ったり、共感したりはできないだろう。

その絵を描くに至った「心」に興味を持たなければ。
興味を持てば、例え理解はできなくても受け入れることはできるかもしれない。
それが共感、ということではないだろうか。


臆病な男の共感の求め。
ピカソの絵に潜む魅力とはそんなものではないでしょうか。


最後に図録を購入。
国立新美術館、サントリー美術館共通なのが嬉しい。

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[表は国立新美術館展示のドラ・マールの肖像]

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[裏はサントリー美術館展示の『青の時代』の自画像]


ピカソ展は12/14まで。
興味ある方はぜひ。

※本展はすでに終了しています。