象徴主義―モダニズムへの警鐘【中村隆夫】

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大学で「社会と芸術」という授業を選択していますが、
その講師である中村隆夫先生の著書。

授業ではゴヤにはじまり、
ダダイスムからシュルレアリスムへときたところで夏休み。
夏休み明けからはダリとロルカ、ピカソあたりからスタート予定。

けっこうな年齢にも関わらず革ジャンにジーパンがよく似合う。
長髪で白いアゴヒゲで見た感じいかにも芸術家肌。
機関銃のようにしゃべるけど話し方もユニークで聞いていて飽きない。
僕に美術をもっと身近にしてくれた人の一人です。


本書は授業ではあまり扱うことのない、象徴主義がテーマですが、
現実を疑問視し、厭世的になるあたりはダダイスム、シュルレアリスムへの
布石となる部分があるといえます。

授業での機関銃のような口調そのままのような文面で、
中にはけっこう理解に苦しむ部分もありますが、
概ね芸術は哲学であり、
「自分とはなにか」とか、「自分がすべきことはなにか」とかいうことを
普段から考えているような人には面白い本だと思います。


芸術は手先が器用な人がやるもんだと思っていた。
しかしそうじゃないんだね。
それは言葉で表現しきれない思いを、
表現したいと思っているすべての人のためのもの。

そう考えればあながち僕にも、そして誰にとっても芸術は身近なものであると
思います。

ダダイスムやシュルレアリスムでは作品の外見そのものがもはや
心の内面を表現しているものが多いのに対し、
象徴主義では幻想や、夢、死と生、エロティシズムや暴力など
心の内面をテーマにもしているにも関わらず、作品の外見そのもの自体は
まだルネサンスなど旧来芸術の表層の美しさ、
というものに囚われているように感じました。

年代的には19世紀末から20世紀初頭。
ダダイスムが第一次世界大戦後から1924年くらいまで。
シュルレアリスムは1924年から20世紀中盤くらいまで。
この時代の流れから考えると、
この特徴はまあ当然といえば当然なのではないでしょうか。

より心の奥深くへ入れば入るほどその視覚的イメージは抽象的になる。
人はみなそれぞれ違う世界を持っているから
最初ダダイスムやシュルレアリスムのようないきなり外見が心象を表すような
作品にはとっつきにくいかもしれない。実際僕もそうでした。

その点象徴主義は「現実」と「心」の中間にあるから比較的心象世界に
入っていきやすい気はします。


旧来のルネサンスや印象派、現実主義の絵ももちろん大事です。
しかしただそれだけではだめだということ。
外と内。身体と精神。
あらゆるものを表現するにはあらゆるものを知らねばならないということ。
まさに温故知新が大切ということ。

本書で存在を知り、好きになった画家としては、
ギュスターヴ・モローやグスタフ・クリムトでしょうか。

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[出現(水彩バージョン)](出典:Wikimedia)

モローの「出現」で洗礼者ヨハネが、
サロメの策謀のために最後は斬首されるのを知った。

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[グスタフ・クリムト「接吻」1907-1908年](画像は大塚国際美術館の陶板画)

またクリムトがウィーン分離派の創設者であることも意外だった。


19世紀末から20世紀初頭。
そこにデザインとアートのエッセンスが詰まっているんですねえ...