(出典:Wikipedia)
磯崎新の建築談議第5巻。
第6巻がゴシックということで、第5巻はその前のロマネスク。
ル・トロネは世界で最も著名で代表的なロマネスク建築、というわけではなく、
磯崎氏の個人的な好みでピックアップされてるようです。
といっても、ロマネスクはゴシックのように強い共通性、というものはまだなく、
地域によって様式が微妙に異なるものらしい。
ゴシックが都市的で薄い壁で大面積のステンドガラスで覆われ、
大規模で天にも届かんとする高さを求めるものであったのに対し、
ロマネスクは主に田舎的で重厚な石壁で覆われ、
小さな窓から入ってくるわずかな光により内部が照らし出される
小規模で閉じたものであった。
分かりやすくいえば、
ゴシックは大聖堂、ロマネスクは修道院といったところでしょうか。
ちなみに「ロマネスク」とは直訳すると「ローマ風の」という意味らしいです。
(出典:Wikipedia)
ル・トロネ修道院はル・コルビュジエがラ・トゥーレット修道院を
設計するときに参考にしたことで有名です。
コルビュジエにラ・トゥーレット修道院の設計を依頼したクチュリエ神父が
彼にル・トロネを見にいくように勧めたのだとか。
ちなみにクチュリエ神父はロンシャンの設計を依頼した人でもあります。
篠山紀信氏が撮影したル・トロネの写真は、
前回読んだシャルトル大聖堂に比べると色調が暗く、造形は質素でシンプル。
暗さの中に美を見出す、という考えは谷崎潤一郎の「陰翳礼讃」を彷彿させる。
ゴシックが外部の造形を分かりやすく目立つものにしたのに対し、
ロマネスクでは俗世間を離れ、自己内省へと向かいます。
そこでは内へ入り込むのに邪魔となる装飾は一切排除される。
まさに究極のシンプルの美学がそこにはある。
質素なロマネスクのあと、豪華なゴシックが登場する。
その後再度古典のシンプルさを求めてルネサンスが登場するが、
やがてまたもや豪華さ、混沌さを求めるバロックが登場する。
さらに時代は進んでまたもや余分な装飾を排除してシンプルさを求める
モダニズムが登場する...
...と、このように時代の流れを追ってみると、
どんなに技術や文明が進んでも様式というものは一定のリズムを
繰り返すものなんだなあって思えます。
人間の根源的なものは変わらない、といったところでしょうか。
相変わらず磯崎氏&五十嵐氏コンビの文章は分かりづらい。
知識としてまではなんとか理解できても、
ロマネスクに対する哲学となるともうよく分からなくなる。
ただなんとなく感じるのは、
ゴシックが外への世界への冒険であったのに対して、
ロマネスクは内への原点回帰なのだということ。
人は誰しも自分の始源である母の胎内へ戻りたいと思っているのだろう。
外への冒険と、内への原点回帰。
どっちが良いかというものではなく、
双方そろって一つの存在となるものではないでしょうか。
次はショーの製塩工場かな。
いや、クライスラービルも捨てがたいなあ...
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