ブレイキング・グラウンド【ダニエル・リベスキンド】

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大学が夏休みに入りました。


そのとたんの自堕落生活。
唯一の心のよりどころが読書。

...というわけでリベスキンドの著書を読みました。

建築家が書く本にしては読みやすかった。
カーンのように深い思想を示唆してくれる、というよりは
エネルギーを与えてくれるものだった。


おかげで一つの決心ができた。
時期的にも良いタイミング。
これぞまさしくセレンディピティ。



LANDSCAPE OF ARCHITECTURES 世界の建築鑑賞 Vol.3」で
はじめてリベスキンドを知ったのですが、世間的にはグラウンド・ゼロの
跡地コンペで優勝したことで一躍世界的に有名になったようです。

本書はそのグランド・ゼロのコンペではじまり、グラウンド・ゼロのコンペで終わります。
その間にベルリンのユダヤ博物館をはじめとした数々の代表作の紹介がされてます。
同時に彼のパートナーで良き妻でもあるニーナ、父ナッハマン、母ドーラなどの家族や
プロジェクトに関わる建築家、投資家、友人などの人間関係を描くことで
彼の建築に対する姿勢が伺えます。


紹介されていた作品をリストアップ。


  ・ベルリン・ユダヤ博物館
  ・デンマーク・ユダヤ博物館
  ・フェリックス・ヌスバウム博物館
  ・トロント王立オンタリオ博物館
  ・ロンドンのヴィクトリア・アルバート博物館(スパイラル)
  ・ミラノの複合施設
  ・デンヴァー美術館
  ・ヴァイル・スタジオ(スペイン・マジョルカ島)
  ・北部帝国戦争博物館(マンチェスター)


ベルリン・ユダヤ博物館、デンヴァー美術館、ヴァイル・スタジオ、
北部帝国戦争博物館はこちらの記事で紹介してます。
この記事にない建物を以下に紹介していきます。
(ネットから探してきました)


まずはデンマーク・ユダヤ博物館。

ユダヤ博物館はベルリンのものが有名ですがほかにも
世界各地のユダヤ博物館を手がけています。
ユダヤ人としての誇りなんでしょうね。


次はフェリックス・ヌスバウム美術館。

FelixNussbaumHaus.jpg
(出典:Wikipedia)

ユダヤ人画家でホロコーストの犠牲になったフェリックス・ヌスバウムの美術館。

felix_nussbaum_inner.jpg
(出典不詳)

細い通路(ヌスバウム通路)での展示は、
画家が狭いゲットーで絵を描いていた状況を絵を見る人に伝えようとするもの。


続いてトロントの王立オンタリオ博物館。

そのスケッチ。

レストランで食事中、突発的に浮かんだイメージをナプキンに描いたものだそうです。
それをそのままコンペに提出して見事優勝だとか。
いやはや天才のやることはスゴイですな...


ロンドンのヴィクトリア・アルバート博物館(スパイラル)

資金難につきまだ建てられていないみたいです。


ダニエル・リベスキンドは1946年ポーランドはウーチに生まれたユダヤ人。
両親はナチスドイツや帝政ロシアのホロコースト(大量虐殺)を生き抜いてきた。
ポーランドからイスラエルを経てニューヨークへ移住。

幼少時はアコーディオンの名手としてその神童ぶりを発揮、
音楽家としての将来が期待されるも母親の一言により建築家を目指すことに。
クーパー・ユニオンで建築を学び、大学で建築を教えるようになるも
52歳になるまで実際に自分の建物を建てたことはなかった。

母親のアドバイスにより建築家への道をたどる、というくだりは
フランク・ロイド・ライトと似ている気がします。
もっともライトの場合は生まれる前から自分の息子は建築家になる、
という強い予感が母親にはあったそうですが。

リベスキンドに建築を志すことを決心させた母ドーラの一言は
図らずも僕に同じ決心をさせた。

「アートで建築はできないけど、建築でアートはできるでしょ」

ドーラというとラピュタに出てくる豪快な女海賊を思い出すのだけど
キャラ的にもなんか似ている気がする。


平和な時代に平和な国に生まれた僕には彼や彼の両親が生き抜いてきた
過酷な時代がどんなものだったかはただ想像することしかできないのだけど、
彼の過酷な幼少時代が彼の建築スタイルに少なからず影響を与えている気がします。

彼の建築は強烈だ。
一度見ただけではその全容はつかめないけど、必ず記憶に残る。
時間をかけてその全容を理解していくことがある種の魅力となっている。
その共通するモチーフは「光」、もっといえば「雷光」。
建築は思想を伝えていくものだということを強く感じさせます。


強すぎる個性は好き嫌いがはっきり分かれるもの。
さらに加えてリベスキンドは独善的で自分以外の建築を否定する傾向にあるので
なおさら激しい衝突が生じる。
この辺の気性もライトと似ている気がします。
天才とはえてしてこんなものなのでしょうか。

本書ではフリーダムタワー(グラウンドゼロ)の共同設計者である
SOM(スキッドモア・オーウィングズ・アンド・メリル)はもうほとんど悪者扱い。
SOMをよく知らない人間には彼らがさぞかし極悪人に映ることでしょう。

凡人の自分はたとえ自分と違うスタイルや意見だとしても、それを否定はしたくない。
自分とはちがう、という事実を受け止めるだけ。

正直読んでてイラっとする部分も少なくなかったけど、
カラトラバのことを称賛しているくだりで一気に好感に転じました。
カラトラバはグラウンドゼロのWTC駅周辺のデザインを担当しています。

[カラトラバ設計のWTC駅 Transportation Hub "Oculus"]

リベスキンドとのカラトラバのコラボ。

度重なる衝突により工期は遅れに遅れ、完成は2010年以降になりそうとのこと。

※2016年現在、工期はさらに遅れてWTC全体の完成は2020年代前半になりそうとのこと。
 カラトラバのOculasは2016年3月に無事完成。


過酷な前半生を過ごしたとはいえ、彼は人に恵まれた。
忍耐強く、思慮深い父親に大胆で行動力のある母親。
聡明で理解のある伴侶。
それが彼の後半生を花開かせた。
50歳代まで自分の建物が1つとして建たなかったものが
いまや世界各地で30を超えるプロジェクトが同時進行している。

彼は自分に希望を与えてくれた。
人生花を開かせる時期は人それぞれだと。

人間の生き方には二種類しかない。
とことん突き詰めるか、中途半端にお茶を濁すか。
上手くお茶を濁すことが要領が良い、ということならば、
自分はそんな人生は望まない。


建築の仕事はいろいろ制約が多い。
建築は一人でできるものではないから。
...誰に相談してもそう言われる。
bestなものではなく、better、下手すればgoodなものすら自分で創ることは難しい。
それが躊躇の理由でもあった。


でもやっぱり僕は建築を学びたい。
建築でbestを目指したい。


ブレイキング・グラウンド。
建築は地上をぶっ壊して基礎を置くことからはじまる。


...そういうことなんだな。