神戸で兵庫県立美術館、メリケンパークを訪れた後、一路大阪へ。
お目当ては国立国際美術館で開催中のプーシキン美術館展。
プーシキン美術館はロシアの首都モスクワにあるヨーロッパ最大の美術館であり、
収蔵品数は約10万点でエルミタージュ美術館に次いで世界二位。
本展はその膨大なコレクションの中から、フランス風景画に焦点をあてたものになります。
金曜・土曜の午後5時〜9時のナイトタイムで会場内での写真撮影が可能、
ということで夕方5時に現地に到着して夜の美術館を堪能してきました。
大阪・中之島にある国立国際美術館は、
地上にはエントランス部分となる巨大オブジェががあるのみで、
美術館そのものは地下に埋設されています。
1977年の設立当初は吹田市の万博記念公園にありましたが、
収蔵品の増加と施設の老朽化により2004年にシーザー・ペリの設計で
現在の場所に新館が建てられました。
地上のエントランス部分。
エッジの効いた骨格がいかにもペリらしい。
翼を広げた鳥なのか、角の生えた怪物なのか。
ここにも角が。
[清水九兵衞「ECHO」(1989年)]
地下1階の巨大な鉄の樹。
ヘンリー・ムーアの巨大な彫刻が出迎えてくれます。
[ヘンリー・ムーア「ナイフ・エッジ」(1961/76)]
まずは企画展であるプーシキン美術館展が開催されている地下3階から。
順路に従ってお気に入りの作品をピックアップしていきます。
前述の通り金土のナイトタイムは会場内が撮影可能です。
第1部 風景画の展開ークロード・ロランからバルビゾン派まで
第1章 近代風景画の源流
[ジャン=フランソワ・ミレー「ハガルの追放が描かれた風景」(17世紀後半)]
旧約聖書の一場面。
イスラエル民族の始祖アブラハムと妻サラの間には子どもができず、
アブラハムはサラの勧めにより女奴隷ハガルとの間に長男イシュマエルをもうけた。
しかしその後期せずしてサラは身ごもり、次男イサクを産んだ。
サラの嫉妬によりハガルとイシュマエルは家から追放された。
[フランソワ・ブーシェ「農場」(1752年)]
ロココを代表する画家。
ロココの官能性・華美性は抑えられ、比較的穏やかな雰囲気。
[クロード=ジョセフ・ヴェルネ「日の出」(1746年)]
[クロード=ジョセフ・ヴェルネ「日没」(1746年)]
日の出と日没、対になる2つの絵。
すべてのものには始まりと終わりがある。
第2章 自然への賛美
何気ない日々を見つめる。
[コンスタン・トロワイヨン「牧草地の牛」(1850年代)]
[ジャン=バティスト=カミーユ・コロー「夕暮れ」(1860−1870年)]
バルビゾン派に...
[ギュスターヴ・クールベ「山の小屋」(1874年頃)]
写実主義。
第2部 印象派以後の風景画
第3章 大都市パリの風景画
大都会の華やかな風景。
[ピエール=オーギュスト・ルノワール「庭にて、ムーラン・ド・ラ・ギャレットの木陰」(1876年)]
「ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会」につながる一枚。
[ルイジ・ロワール「パリ環状鉄道の煙(パリ郊外)」(1885年)]
1850〜1860年代にパリ市内に相次いで開業した環状鉄道。
絵の中に列車の姿はなく、煙だけで鉄道の存在を伝える表現力がスゴイ。
一方で街路には馬の姿も見え、新旧の文明の移行の様子も垣間見える。
[アルベール・マルケ「パリのサン=ミシェル橋」(1908年頃)]
路面電車と馬車、こちらも新旧の文明の移行の様子が見て取れる。
第4章 パリ近郊ー身近な自然へのまなざし
[クロード・モネ「草上の昼食」(1866年)]
本展の目玉作品。
「草上の昼食」といえばマネのものが有名ですが、モネも描いていたことにびっくり。
本作は20代半ばで画家として頭角を現し始めていたモネが、
サロン出品作の最終下絵として制作されたもの。
出品作は縦4メートル、横6メートルもの大作になるはずでしたが、
作品は完成することなく分断され、現在は2つの断片がオルセー美術館に残っているのみ。
本展図録には出品作の画中の男性の一人はクールベがモデルであり、
モネはクールベの助言にしたがって画面を修正したが、その結果に満足できなかった、
とある一方で2014年の国立新美術館でのオルセー展の図録では、
クールベが出品作を批判したしたためモネはサロン出品を諦めた、ともあります。
いずれにせよモネの「草上の昼食」完成版が実現しなかったことに
クールベが一枚噛んでいたと思うと、クールベを恨めしく思っちゃいますよね。
[クロード・モネ「白い睡蓮」(1899年)]
高知のモネの庭で複製画を見て以来、ずっと見たかった一枚。
[アルフレッド・シスレー「オシュデの庭、モンジュロン」(1881年)]
早い時期から印象派を評価し、作品を収集していた実業家オシュデ。
しかしオシュデは1877年に破産してしまう。
画家は、自分たちを評価してくれていたパトロンを偲んでこの絵を描いたのだろうか。
[アンリ・マティス「ブローニュの森」(1902年)]
フォービズム誕生の予感。
第5章 南へー新たな光と風景
鉄道の開通により画家はより良い構図を求めて南へ。
セザンヌといえば一連のサント=ヴィクトワール山シリーズ。
[ポール・セザンヌ「サント=ヴィクトワール山の平野、ヴァルクロからの眺め」(1882−1885年)]
[ポール・セザンヌ「サント=ヴィクトワール山、レ・ローヴからの眺め」(1905−1906年)]
この絵から20年。
[アンドレ・ドラン「港に並ぶヨット」(1905年)]
キュビズム誕生の予感。
第6章 海を渡って/想像の世界
[ポール・ゴーギャン「マタモエ、孔雀のいる風景」(1892年)]
科学の発展による新しい文明を嫌って、ゴーギャンは未開の地タヒチへ。
しかし、新しい文明はタヒチにもすでに及んでいた。
[モーリス・ドニ「ポリュフェモス」(1907年)]
ギリシャ神話に登場する巨人ポリュフェモス。
本作では巨人の恐ろしさではなく、恋する女性に振り向いてもらえず、
海に向かって寂しく葦笛を吹く男の悲しい後ろ姿を見せている。
[アンリ・ルソー「馬を襲うジャガー」(1910年)]
植物園より遠くへ旅行したことのなかったルソー。
人間は想像力で世界を駆け巡ることができる。
続いて地下2階のコレクション展「コレクション1 : 2014 → 1890」へ。
[アレクサンダー・カルダー「ロンドン」(1962年)]※常設展示作品
1世紀にわたる美術作品の変遷を時代を遡りながら辿る試み。
企画展の撮影可能時間帯では特に手続きすることなく撮影が可能なのですが、
コレクション展では受付で許可証をもらい、首にかけておく必要があります。
基本的に現在から過去へ遡りながら観覧していく流れですが、
自分的にはやはり過去から現在へと辿るほうが分かりやすいので、
以下古い順にお気に入りの作品をピックアップします。
[1950s〜1890s]
[ポール・セザンヌ「宴の準備」(1890年頃)]
セザンヌこんな絵も描くんだ、みたいな。
[マックス・エルンスト「灰色の森」(1927年)]
前から思ってたんだけど、背後の白丸はなんなんだろ?
[マン・レイ「イジドール・デュカスの謎」(1920/71)]
イジドール・デュカスは「マルドロールの歌」で有名なロートレアモン伯爵の本名。
[アルベルト・ジャコメッティ「男」(1956年)]
縦に引き伸ばされた世界。
[1970s〜1960s]
[アンディ・ウォーホル「4フィートの花」(1964年)]
見たまんまのタイトル。
[三木富美男「EAR」(1972年)]
でっかい銀色の耳。
[1990s〜1980s]
[アンゼルム・キーファー「星空」(1995年)]
無数の星は人々の魂なのだろうか。
[奈良美智「長い長い長い夜」(1995年)]
長い長い長い下駄足の女の子。
[イサム・ノグチ「雨の山」(1982年)]
イサムにしては比較的分かりやすいタイトル。
[2010s〜2000s]
[タイトルわからず]
最初は観覧客かと思うほど精緻に作られた実物大の巨人。
公式図録。2300円なり。
表紙が4酒類から選べます。
Ver.1 森と山の緑があふれる風景(表:モネ/裏:セザンヌ)
Ver2. 空想と現実の行き交う風景(表:ルソー/裏:マルケ)
Ver3. 港と睡蓮のたたずむ風景(表:ドラン/裏:モネ)
Ver4. 動物と人間が生活する風景(表:コワニエ&ブラスカサ/裏:レルミット)
自分は表:モネ/裏:セザンヌバージョンにしました。
訪問日:2018年8月11日(土)17時頃
アクセス:大阪駅より車で10分
駐車場:なし → 周辺にコイン駐車場があります。