アール・ヌーヴォーの展示に続いてアール・デコの館へ。
3年ぶりの東京。
ミュシャ展終了後、同じく国立新美術館で開催中の草間彌生展を
限られた時間の中で少しでも多く懐かしい場所を回りたい、ということで
断腸の思いであきらめて、目黒の東京都庭園美術館へ。
並河靖之の超絶技巧の七宝の数々を見てきました。
自分は格別焼き物に詳しいわけではないし、
並河靖之という七宝家もこの度はじめて知りました。
それでもこの展示を見る気になったのは、
やっぱり東京都庭園美術館という懐かしい場所を訪れたかったから。
在京時代は、お気に入りの空間としてよく訪れました。
愛媛に移住後に新館ができたと聞き、また行きたいなあと思いつつ月日は流れ、
今回の展示が終わった直後から11月までのおよそ半年間、
本館のバリアフリー対応工事でまた全面休館するとのことで、
ミュシャ展と合わせて見ておきたいなあ、と。
「庭園美術館」というくらいなので、庭園が売りの空間なのですが、
一番のおすすめは旧朝香宮邸として建てられた本館。
現在は美術館となっていますが、当時のアール・デコ様式を色濃く残しており、
建物自体が大きな美術作品となっています。
図録(2700円)
並河靖之は久邇宮朝彦親王に仕えた近侍でした。
ちなみに本展会場である朝香宮邸を建てた朝香宮家は、
久邇宮朝彦親王の第8王子の起こした宮家になります。
この展示もそういった縁に起因するのでしょうか。
幕末から明治へと大きく時代が変わる頃、家従としての俸給だけでは立ち行かず、
様々な副業を模索の末にたどり着いたのが七宝だったとか。
つまり、昔ながらの職人の家系ではなかったにも関わらず、
最初の作品を作ってからわずか2年ほどで賞をとるまでの腕になった。
会場内で流れていた七宝の製造過程を紹介する映像を見て、
はじめて並河の数々の作品がいかに超絶技巧であるかが理解できました。
並河靖之がやっていたのはいわゆる「有線七宝」なのですが、
絵や文様の輪郭を金線や銀線で縁取り、
その間を釉薬で盛り込んで色付けをして焼きつけた後、
表面の凸凹を磨いて滑らかな面に仕上げる...
緻密な紋様を仕上げるためにこの気が遠くなるような作業を延々繰り返すわけです。
超絶技巧以外のなにものでもないわけです。
会場内は撮影禁止なので、pinterestから作品画像を探してみました。
(必ずしも会場内の展示作品と一致しない可能性もあります)
ただ、普通に眺める限りでは超絶技巧の凄さは見えてこない。
最初、作品に顔を近づけて見ていたのですが、
たしかに緻密な図柄だけど、超絶技巧と言うほどのものなのかな、
それどころかちょっと古臭くてつまらない、と思えるほどでした。
「今回はハズレだったかな」...そう思いはじめた頃、
他の人達が単眼鏡で作品鑑賞している光景を目にした。
どうやら会場内で無料貸出しているらしい。
試しにこの単眼鏡を借りて見てみたら...
ぜんぜん違う。
どうやら並河七宝はマクロではなく、ミクロで見るものらしい。
単眼鏡での鑑賞を断然オススメします。
作品だけでなく、並河の作品作りに対する姿勢からもまた学ぶこと多し。
「大きな倉庫、大きな作業場は要りません。100人以上の従業員を持つ野心もありません。多量の依頼や商売上の注文を取ったり、与えられた時間内で制作をすることは御免です」(Wikipediaより)
「よい芸術、よい作品は、銭金の指図を受けません。それから従業員には急ぎ仕事はさせません。そうでないと精緻さに欠けた作品となり、また急場仕事で負担がきつくなるからです」(Wikipediaより)
「どんな鑑定家に見せても恥ずかしくない出来栄えのよい作品のために、何年も時間をかけることは苦痛ではなく、むしろ喜びです。そこから、まさに、賞賛と名誉が得られるのです」(Wikipediaより)
2時間ほどじっくり鑑賞して、外へ出る。
旧朝香宮邸
ルネ・ラリックのガラス装飾
床のタイルもアール・デコ
2014年にリニューアルオープンした新館にようやく訪れることができました。
杉本博司をアドバイザーとなったそうです。
本館の朝香宮邸と違和感なく調和していて良かったです。
案内板もガラスベースにリニューアル。
ちなみに庭園は西洋庭園と日本庭園があるのですが、
西洋庭園はすでに工事中で入れなくなっていました。
西洋庭園は「くつろぐ」場所であるのに対し、
日本庭園は逆にピリッとした緊張感を楽しむ空間。
残念ながらかつての庭園の魅力を味わうことはできませんでしたが、
企画展のほうが思った以上に面白くて良かったです。
満足満足。
さて、これから水戸へ移動します。