...而してこの聖堂によりて恒に伝へられるべきものは、虚偽に非ずして真実、権力に非ずして正義、憎悪に非ずして慈愛、即ち人類に平和をもたらす神への道たるべし。故にこの聖堂に来り拝するすべての人々は、逝ける犠牲者の永遠の安息と人類相互の恒久の平安とのために祈られんことを。(聖堂記 昭和29年8月6日)
村野藤吾設計、世界平和記念聖堂。
この教会が故郷広島にあることを心から誇りに思う。
ここを案内してくれたガイドの方が言うには、
広島市内は業者による癒着が少なく、建築家が自由に建てやすい土壌だと。
そのため、魅力的な建築が多い、と。
丹下健三の平和記念公園をはじめ、
村野藤吾の世界平和記念聖堂、黒川記章の広島市現代美術館、
原広司の基町高校、谷口吉生の環境局中工場、山本理顕の西消防署など...
著名な建築家の建物が多くあるようです。
さて、話を世界平和記念聖堂に戻して。
外観編に続いて内観編。
聖堂内部、前方祭壇を臨む。
聖堂内部、後方パイプオルガンを臨む。
独特な祭壇。
以前は十字架に張りつけられたイエス像が置かれていたそうですが、
現在は復活したイエスの絵になっています。
惜しむらくは平面的な「絵」ではなく、立体的な「像」であってほしかったかな。
こちらが以前置かれていたイエス像。
現在は後方小聖堂のあたりに置かれています。
「INRI」は「ユダヤ人の王、ナザレのイエス」の略。
祭壇上部のドーム。
祭壇のアップ。
祭壇向かって右側の側廊にあるマリア像。
側廊。
パイプオルガン。
側壁窓には全面聖書の内容を描いたステンドガラス。
ステンドガラス間にはやはり聖書の内容を描いたと思われるレンガのレリーフ。
外からの光を直接入れるのではなく、
ブリーズソレイユにより光を拡散させ、聖堂内には和らいだ光が入るよう工夫されています。
ハスの葉のシェードを使って照明にも仏教要素が伺えます。
床のマーク。
天井。
空間が大きすぎるせいか、真っ直ぐに撮ることができない...
太陽光が差し込む右側側面は暖色系のステンドグラス、
その反対側面は、逆に寒色系のステンドグラスが配されています。
説教台。
小礼拝室。
小聖堂は外壁面に合わせた内壁面処理でさらに有機性を強めている。
洗礼台。
洗礼台上部の屋根。
バロックだなあ。
ここにも後の有機性への萌芽が見られます。
目黒区役所のロビー天井にもこのような楕円天井があります。
円筒型の壁に合わせて、ガラス枠まで微妙なカーブを施してます。
独特の階段。
階段は得意みたいですね。
手すりもこころなしか鳥居による和風を表現してるような気が...
方形によるソリッドなモダンさと同時に、ラウンド処理による有機性の表現、
西洋のキリスト教世界の表現と同時に、仏教、神道による東洋世界の表現。
秩序と混沌、不安と平安、明と暗...
ここには村野藤吾の迷いと試行錯誤が詰まっている。
混沌は混乱を生みやすいもののはずなのに、
ここには不思議な調和が漂っている。
それは一見相容れないもの同士であっても、
争うことなく仲良くできる、という「平和」の理念を表現するものではないだろうか。
パンテオンがただ祈りつづける場として、
究極なシンプルさを持って時を越えて残りつづけているように、
ここも時を越えて残りつづけてほしい。
【information】
アクセス:広島駅から「宮島口」行きに乗車し、「銀山町」下車、徒歩5分。幟町小学校前。
入場無料、ただし宗教行事等により入場できない日や時間帯あり。