第6回地域力創造セミナー

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総務省主催の地域力創造セミナーに参加してきました。
会場は東京駅そばのサピアタワー内にある、関西大学東京センター。

半年ぶりの東京。
東京駅もすっかり変わってました。


セミナーのテーマは「文化芸術の振興によるまちづくり」。

昔から金勘定が苦手でした。
若いときはひょんな運から理数系の学校に進みましたが、
結局それを本道にすることはできず、遅い美大への入学で、
ようやく自分の本道を見つけることができました。

だから着任前から自分の取り組みとしては経済面からではなく、
文化面から行なうと心に決めており、それをアピールしてきました。

しかし、文化面からの地域おこしはなかなか理解してもらうことが難しい。
なぜなら、経済は人が物理的に生存していくための社会基盤であり、
文化は人が幸福に生きるための社会基盤だからです。

幸せに生きるためにはまず、生きていなければならない。
この優先順位に加えて、経済にはその到達指標として貨幣という共通単位があるのに対し、
文化にはなかなかその共通単位がない。
幸せの形は人それぞれだから。


結局はコロンブスの卵なんだろうけど。
幸せになるにはまず生きなければならない。
しかし生きる以上、幸せでなければ生きる意味が感じられない。
それが人間というものなのでしょうか。

文化と経済、どちらを優先するかは賛否両論あると思いますが、


文化なくして生きる意味なし、
ゆえに文化が考慮されない地域おこしもありえない思うのです。


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[会場そばの東京駅入口]


今回の講師は以下の三人。


  ・財団法人アサヒビール芸術文化財団事務局長・加藤種男氏
  ・鳥取大学地域学部地域文化学科教授・野田邦弘氏
  ・東京藝術大学音楽学部音楽環境創造科教授・熊倉純子氏


主な流れとしては、
各講師の講演の後、三者によるパネルディスカッション、そして質疑応答、といった感じ。


感覚的には企業人ということもあってか、加藤さんの話が一番わかり易かった。
熊倉さんも具体的な事例紹介によりアートプロジェクトの現場の雰囲気が伝わってきた。
よく分からなかったのが野田さん。
元横浜市の職員で横浜トリエンナーレなどを担当されたそうですが、
対象が都市であることに加えて、「創造都市論」というのがいまいちよく分からなかった。


ここ1年足らずの経験でしかありませんが、
地域おこしは人に習って行なうものではない、と思っています。

ではなぜ、こうした成功事例に耳を傾けるか。
それは元気をもらうためです。
「よっしゃワシらもいっちょうやってみるか!」というモチベーションを得るためです。


加藤氏から「投資」についてのお話が印象深かった。

一般的な投資の原則。

その1。投資者は対象事業に対し「資金」を投入し、「資金+配当金」を回収する。
その2。投資者が投資した資金は、投資者自身に還元される。
その3。投資者の投資資金はできるだけ早く還元されることが望ましい。

その1は、投資するものと還元されるものはいずれも同じ「お金」という形態だ、ということ。
その2は、投資とその還元は原則一対一で行われるということ。
その3は、投資には迅速性が求められる、ということ。

これが文化に対する投資となると、ちょっと変わってくる。

原則その1について、必ずしも還元されるものはお金ではない、ということ。
というより、お金に変えられないものこそが「文化」ですよね。

原則その2について、事業成果は必ずしも投資者自身もしくは投資者だけに還元されない。
一般的に考えると、文化は社会に還元されてはじめて文化となりますよね。

原則その3について、投資に対する還元に迅速性は求められない、ということ。
文化が形成されるのに時間が必要であることはいうまでもありません。
迅速性を求めるとそれはエンターテインメント(娯楽)にしかならない。

...すごく納得。

自分の信念を保証していただいたような気分。

文化芸術振興による地域活性化といっても、もちろんある程度の経済効果は必要。
その効果の挙げ方を一言で言うならば、「イメージ戦略」でしょうか。
地域の魅力を見出し、それをアピールする。

地域のロゴ作成やカレンダー作成、ポスター作りなど、
日頃の自分の活動を評価されたような気がして嬉しかった。

事例として別府や湯布院を挙げておられました。
湯布院へは木工の先進地視察を検討していただけに、
やはり自分の活動を保証していただいたようでうれしい。


熊倉さんの事例紹介で気になったのは、
いずれもアーティストは外部招聘が原則であること。
そりゃ作品そのものは地域の特性に合ったものになるでしょうが、
地域に根づくかというと、それだけでは不足のように思えます。

現状では地域内に感性豊かな人材を育て、
表現力を磨くための試みが不足しているように思いました。

もちろん、多くの人に文化や芸術について理解をしてもらうのが、
一番の難関である、ということは分かります。
それだけにそこに対する回答を期待していたのですが、
現状は外部招聘によるイベントを起爆剤にする、というところまでしか、
効果が出せていないように感じました。

これだと一過性に終わってしまう可能性が高い上に、
文化や芸術形成は一部の人だけのもの、という偏見を助長してしまう気がするのです。

自分としてはその偏見に対する挑戦を未熟ながらもしてみたい、と思っているわけです。


地域活性化は、あくまでその地域在住の人間主体でなされるべきだと思います。
中央集権がグダグダの現状を見てもそれは一目瞭然ではないでしょうか。
もちろん、それは地域在住の人間だけでなされるべき、ということではありません。
人は一人で生きられるものではないように、地域もその地域だけで自立できるものではなく、
地域とその周辺との関係性で成り立つものです。
都市が田舎を従えるのではなく、一対一で向き合うのです。

こうしたアートプロジェクトのプロデューサーや地域おこしコーディネーターはいわば
その「周辺」です。地域活性化においては主役ではなく、あくまで脇役です。
こうした脇役がもてはやされているうちはまだまだ地域活性化としては未成熟状態です。
地域の人間が誇りを持てるようにすること。地域の可能性を感じさせること。
僕ら脇役の役目はそこにあります。
そしてそこが地域おこしの本当のスタートになるのです。


今回は全国から130人ほどの参加者でした。
最後は交流会、とあったので、これらの参加者同士が交流できるのかと思いきや、
フタを開けてみると、講師との名刺交換会でした。
うーん、ちょっと違う気が...


才能が地域を豊かにするのではない。
活力が地域を豊かにするのだ。


しかし、同じアートの世界にいても、自分で作品を作るのと、
他人の作品をプロデュースするのとはぜんぜん違うことなんだね。
正直自分としては、やはり自分の作品を作っている時が一番楽しい。
今は立場上プロデュースすることも考えなければなりませんが。

まあ、これも勉強ですね。