Touch the Sound【エヴリン・グレニー】

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二度のグラミー賞を受賞したパーカッション奏者、
エヴリン・グレニーのドキュメンタリー映画を観ました。

前から彼女を知っていたわけでもないし、
音楽や楽器に格別詳しいわけでもない。

プロバイダのMLでこの映画が紹介されているのが目に留まり、
「Touch the Sound」というタイトルになんとなく惹かれて
渋谷はユーロスペースへ観にいったのでした。



「出会うもの全てを受け入れたいわ」


映画の冒頭で彼女が語るこの言葉が、
彼女の音に対する姿勢であり、この映画のテーマだと思います。

驚くべきは彼女が聴覚障害を抱えた人間であるにもかかわらず
さまざまな音の表現ができること。
予備知識なしでこの映画を観ると、上映開始から15分くらいは
彼女が聴覚障害を抱えた人間であることが分かりません。
それくらい彼女は普通にコミュニケーションをとります。

王立音楽院というイギリス最高位の音楽大学を卒業し、
数々の栄誉を手にしながら彼女がその音楽活動の場として
いるのは最新設備のそなわったスタジオではなく、
古びた工場跡だったり、アパートの屋上だったり、
ストリートだったり、居酒屋だったり。

彼女の音楽はあらゆる「場」で展開される。
大切なのはそこに目を向けること。
音に触れる、ということ。

映画自体も本来なら最新音響設備を備えた映画館で
上映されてもおかしくないスケールなのに、ありふれた
2chステレオの小さめな映画館。

それでもこの映画は心に響く。
音は表面上のものから発せられるものじゃなく、
その奥深くの内部から発せられているのだと。
声も口から出るのじゃなく、横隔膜よりもまだ深い、
奥の奥から発せられているのだと。


心の奥深くのものを形にすること。人に伝えること。
それはデザインの原点。
そういう意味で彼女は素晴らしいアーティストであると同時に
素晴らしいデザイナーでもあるのだろう。