内井昭蔵の思想と建築【世田谷美術館】

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ついこの間まで、東京に何年かぶりに積雪するほどの寒さだったかと思えば、
早いところではすでに桜の花が開花しはじめているほどの陽気。

ふとテレビをぼーっ...と眺めていると、
天皇が住まわれる御所を設計した内井某という建築家の展示を、
陛下が見学されている...とのニュースが流れていました。

そこでググって見ると、世田谷美術館で今月一杯までの展示。


  内井昭蔵の思想と建築  自然の秩序を建築に


「自然の秩序を建築に」というフレーズに惹かれて、見に行ってきました。


隈研吾の「負ける建築」を読んでからというもの、
「建築は自然から断絶した存在である」ということが頭に引っかかっていた。

建築は自然と断絶するところからはじまるのだろうか。
建築が自然と「共生」する道はないのだろうか。


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春休み直前に自分たちの展示空間を手がけたこともあってか、
プロの展示空間作りの見事さにも感心しちゃいました。

展示台を姓である「UCHII」に配しているところなんか、
ベタなんだけれど、それをさりげなくスマートにやっているところとか、
ガラス陳列台の一部にあえてパネルを置き、
ある場所からしかガラス陳列台の中の作品を見れないようにしているところとか。


祖父・河村伊蔵、父・内井進と三代にわたり、
敬虔なキリスト教信者にしてすぐれた建築家。

建築に神聖性と同時に、自然との調和を求める特徴は、
この親子三代の系譜にある。

菊竹清訓事務所出身なんですね。
戦後の日本建築史を代表する建築家の一人なのだそうですが、
恥ずかしながらこの展示を観にいくまで、正直まったく知りませんでした。
建築家ってたくさんいるんだなあ...


大きな箱を区切って部屋を分割していく、というよりは
小さなユニットを複合的に組み合わせて構築していく。

まさに「自然の秩序を建築に」という理念を具現するもの。
これぞ有機的建築。

住宅・集合住宅を中心に、宗教建築、学校、美術館、ビル、保養所など、
実に多岐にわたって多数の建築を手がけてます。

世田谷美術館もこの方の設計なんですね。


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装飾的、有機的という点からライトの作風に似ている気がします。
実際、コルビュジエの「住宅は住むための機会である」という名言には反発したそうです。
まあ、そのコルビュジエ自身も晩年はロンシャンの礼拝堂の見られるように、
有機的建築への移行が見られるわけですけど。

突き詰めていけば、やはり建築は自然へと戻っていくのが自然なのだろうか。


「有機的」というのは、ただ形が曲線であればいい、ということじゃない。
一見無秩序のカーブを描いているように見える自然も、
その基本要素は、いたってシンプルな幾何学図形で構成されている。
その基本要素が無数に集まって、複雑なラインを形成するのである。
一見無秩序のように見えるけれども、そこには必ず「秩序」がある。

僕にはザハの建築は「未来的」であっても、「有機的」でないように思える。
それは一見斬新なようにも見えるけれども、
「抽象こそが理想」という一昔前の未来像である。
ファッショナブルでカッコイイけれど、本質的ではない。
...そんな気がしてならない。
あくまで僕の感覚での話だけど。

複雑な機能を実現しながら、簡単に構築できるもの。
それこそが「有機的」ということではないだろうか。


3,000円という値段の割には立派な装丁の図録があったのだけれど、
さんざん悩んだ挙げ句、今回は断念。


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