スタジオジブリ・レイアウト展【愛媛県美術館】

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愛媛県美術館で開催中の「スタジオジブリ・レイアウト展」に行ってきました。

久々の愛媛県美。そして久々の芸術鑑賞。

本展はいわゆる完成美術品の展覧会ではありません。
アニメーションという一つの作品において、その全体設計図が絵コンテであり、
そしてレイアウトは場面場面の仕様が描かれた「部品設計図」。
本展ではそのような「部品設計図」を集めて展示するものです。


あらゆる分野においてコンピュータ化が進み、CADで設計図が描かれるようになった時代。
それは飛躍的なクオリティとパフォーマンスの向上をもたらす一方で、
誰がいじっても同じようなものを産み出す画一性がある種の退屈さをもたらすようにもなった。


(完成形ではない、という意味で)不完全な部品設計図を美術館で展示できる、
ということがどういうことなのか。
それを考えることで即効性が求められる娯楽(エンターテインメント)と、
世代を超えて受け継がれていく芸術(アート)の両者の立ち位置を再認識する。

そうすることで「良いもの」は創り続けられるのではないだろうか。


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例によって本展も会場内は基本的には撮影禁止ですが、
一部撮影可能エリアでの写真を交えながら本展の所感をレポートします。

個人的には、
「カリオストロの城」「風の谷のナウシカ」「天空の城ラピュタ」「紅の豚」など、
初期の宮崎作品が好き。
それでも「もののけ姫」「千と千尋の神隠し」「ハウルの動く城」くらいまでは
楽しんでみることができたけど、それ以降はあまり熱心に見なくなった。

多感な若人時代に見たものが一番心に残る、という世代の問題なんだろうけど
自分は初期の作品群が持つ「シンプルさ」が好きだ。
ジブリも制作を重ねるに連れ、ハイテク化が進んだけれど、
その一方で初期作品群が持っていた素朴さという魅力が失われていったような気がする。

最近、宮﨑駿氏の初監督作品の「未来少年コナン」を見た。
作画・動画レベルは最近のアニメーションに見慣れていると、少し稚拙に感じてしまう。
でも感動する。
これまで作られてきた宮崎アニメの魅力の原石がここにはある気がする。

「初心忘るべからず」とはよくいったもので、
これは単に「おごるべからず」という戒めだけではなく、
はじまりの原石にはすべてが詰まっている、示唆もあるのではないだろうか。


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[風の谷のナウシカ(1984年)]

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[天空の城ラピュタ(1986年)]

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[もののけ姫(1997年)]


2007年に東京都現代美術館で開催されたジブリの背景職人・男鹿和雄氏の展示でも
感じたことだけれど、「セルになる前の絵は芸術レベル」という事実。

動画というメディアはその性格上、1つ1つのシーンをじっくり眺めることはない。
動画そのものは現実そのものに近いため、すんなり脳にイメージが入ってくるものの、
一つ一つのシーンについてその多くは記憶に残らないことが多い。
しかしアニメーションというメディアはその一つ一つのシーンを心血を注いで作っている。
できあがってしまえば大して注目されることのないシーンについて、
静的状態で展示されているレイアウトを見ることで、
普段は見えないスタッフの熱い想いと努力を感じることができ、それは感動を呼ぶ。

そこにアニメーションの背景画やレイアウトを美術館で展示する意味があるのだと思う。

人の心を動かす人と人、人と物との関係性というものがあると思う。
それを探ることはものづくりにおいてもとても重要なことだと思う。

ものづくりの魅力とか重要性といったものを見失いがちになってる今、
今回のこの展示はとても勉強になった。


それにしても、愛媛では2016年開催のこの展示
2008年に東京都現代美術館での展示でスタートし、その後国内巡回、
実に8年がかかりで愛媛に巡ってきたんだね。
開催時期が遅いから、というわけでもないんだけど、
どうも愛媛はアートに関して鈍感、というイメージが拭えない。

2008年といえば美大生としてまだ東京にいたので、
知ってさえいれば8年前に行けたのになあ。
その前年に開催されたジブリの背景職人・男鹿和雄氏の展示は見に行ったので、
美大生の頃に二つの展示を経験していれば...

と悔やんでもしょうがないんだけど、なんか損した気がしてしまうなあ。

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[図録 3240円]