感情教育【フローベール】

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今年は共通教育科目を上野毛では二科目履修しています。
そのうちの1科目が中村隆夫先生の「特講Ⅰ」。
3年連続で同じ先生の授業をとっているのはこの中村先生だけ。

2年生までは絵画や彫刻などのアートの王道を学んだわけですが、
特講Ⅰはテーマは「文学」。
もう1科目の「生物と芸術」は「美術解剖学」。
ちょっと変わった路線を学んでます。


で、特講Ⅰではジョン・ダン、フローベール、ロートレアモン、
ボードレール、オスカーワイルドなどの作品をオムニバス形式でピックアップ、
短い期間なので作品の抜粋部分のプリントで概要を学んでいく、という形式。

んでせっかくだから、ということで
フローベールの代表作、「感情教育」を読んでみました。

意外にも大学の図書館になかったので、
世田谷区の図書館で借りました。
岩波文庫の上下巻構成。


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ギュスターヴ・フローベールは1821年生まれのフランスの小説家。
代表作は本作の他に『ボヴァリー夫人』『サラムボ』『聖アントワーヌの誘惑』など。
ロマン主義の影響を受け、文学上の写実主義を確立した人だとか。
ちなみに絵画の写実主義と文学の写実主義とはちょっとしたタイムラグがあり、
別物だとか。

文学上の写実主義が確立した当時、絵画ではバルビゾン派が主流であり、
文学上の写実主義がエミール・ゾラなどの自然主義に移行し、
その影響を受けたのがクールベなどの絵画の「写実主義」なのだそうです。


『感情教育』は1869年、フローベール48歳の時に
学生の頃に書いたものを再編したものだとか。

「視点技法」という複数の登場人物の視点から物語を描くことで、
ロマン主義の主観主義的から客観主義的表現となっている...とか。


で、実際読んでの感想ですが...

物語はフレデリック・モローという中産階級の青年を主人公として、
その周囲の友人、知人、恋人とのやりとりを描いたもの。
歴史背景としては1830年の7月革命に端を発したルイ=フィリップによる王政復古から
1848年の2月革命でブルジョワと労働者階級の貧富の差が激しくなり、
やがてはナポレオンによる第二帝政へと続くパリが舞台となっています。

恋愛あり、友情あり、仕事のつきあいあり、政治思想あり、と
「ごちゃごちゃしすぎ」というのが率直な感想でしょうか。
あれもこれも詰めすぎて、主題がよく分からない。
客観性も度が過ぎるとわけが分からなくなる、ということでしょうか。

ものごとを理解するにはある程度の主観と客観のバランスが必要なのだな、と。


主人公フレデリックがパリから故郷へ帰る船の上で、
アルヌー夫妻に出会うところから物語ははじまる。

アルヌー夫人に一目惚れしながらも、
その夫である画商のアルヌーとは長いつきあいとなる。
アルヌーは家庭を大事にする一方で、外では愛人を囲い、
フレデリックはアルヌー夫人とプラトニック・ラブを貫きながらも、
別に愛人ロザネットを囲い、子を孕ませながらも出世のために
銀行家ダンブルーズの未亡人と結婚しようとする。

その他、
弁護士デローリエ、数学教師セネカル、正義感あふれるデュサルディエ、
芸術家ペルラン、役者デルマール、謎の老人(?)ルジャンバール、
新聞記者ユソネなどの友人知人たち、
故郷のフレデリックの母親(モロー夫人)、
隣人で金持ちのロック老人とその娘のルイズ...

この他にもまだまだ多くの人物が登場し、
誰がどんな人だったかが分からなくなってしまうほど。

ただ一つ言えるのは主人公フレデリックをはじめとして誰一人として
好感が持てない、ということ。

それでいて、ここに登場する人物全てが自分を含めて身近にいそうだということ。

悪、というのは「弱さ」なんだなと思った。
悪は排除すべきものではなくて、負けるべきものではない、ということ。

誰にだって弱い部分を自分の中に持っている。
そういう部分に鈍感であったり、無視したり、逃避したりすることで
悪は生じ、人に害を与える。


正直フランスの歴史には詳しくないので歴史背景については
ちんぷんかんぷんだった気がするけど、
時代が変われど変わらない本質というものが見えた気がしました。


『ボヴァリー夫人』も読んでみようかなあ...