田渕俊夫展【日本橋高島屋/日本橋三越本店】

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[日本橋高島屋図録]

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先週の「新日曜美術館」で田渕俊夫という画家を知りました。


...衝撃。

正直日本画はあまり好きではないですが、
東山魁夷氏以来の感動です。


日本画って無秩序を楽しむものだと思ってた。


こんなにもモダンな日本画があったなんて。


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[三越図録]


『目を奪う繊細。心に染みる深遠。』というフレーズがぴったり。
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『大地悠久 雲海富士』(出典不詳)


日本橋の三越と高島屋で展覧会があると知り、
三越のほうは本日最終日、ということで、
大学のレポート課題、テストも終わったということで急ぎ行ってきました。


三越のほうは藝大退官記念、ということで
教職在職中の作品およそ60点が紹介。

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[三越会場チケット]

タカシマヤのほうは京都の智積院講堂襖絵完成記念、ということで
完成した60枚に及ぶ襖絵の実物が展示されています。

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[高島屋会場チケット]


同じ画家の作品で、距離的にも近いのだから相互協力して
アピールすればいいのになぜか両会場相互に干渉を避けてるようでした。
入場料は三越のほうが大学生以上は900円、
高島屋は一般800円が大学生は600円に割引されます。


すごいな、と思ったのは、
およそ30年もの間、誰もが知っていながら誰も描いてこなかった
ススキなどの身近な草花を黙々とスケッチし続けたという根気強さ。
その地道な積み重ねが智積院の襖絵作品に結実した。
一方で藝大の大学院まで進みながら若かりし頃は院展に落選する日々だったとか。
まさに大器晩成の典型例。
心なしか若かりし頃の写真より、今の顔のほうがいい男に見えます。

その氏の大作が長谷川等伯などの古来の名作に並んで置かれる
というのだからそのすごさやいかに、というところ。

智積院の襖絵は墨だけで描かれていて、
日本古来の侘びが見事に表現されているわけですが、
氏の作品が全てそうかというとそうでもない。

むしろ日本画なのになんでこんなにモダンなの?、というぐらいモダン。

日本のみならずアフリカやタイなどに出かけてその風景を描いています。
都市の夜景やバイクの大群などが、幾何学的な強い線で描かれている。


『刻』(会場では青信号バージョンが展示されていました)

強い線と、その周辺の絶妙な「ぼかし」とのコントラスト。
それが田渕俊夫、という画家の特長ではないでしょうか。
それがモダンさと日本画独特の幽玄さを両立させている。


東山魁夷氏との共通点を感じる部分があります。
それは光の表現。
それは印象派とも繋がるようなものがあるように僕は感じます。
目を細めて見るとリアリティが強まると同時により感動が深くなる感じ。
この感じがとても似ている。

逆に東山魁夷氏と違うのは少ない色彩と強い輪郭線でしょうか。
東山魁夷氏の場合は多彩な色彩でモダンさが出るのに対し、
田渕俊夫氏の場合は強い輪郭線でモダンさが出る。

輪郭線は日本画固有のものなんだろうけど、
氏の場合は幾何学的な線であることでモダンさが出てるんだと思う。

色彩の少なさにはこだわりがあるようです。

「色をつけるとものを語っちゃうんですよ。

 なんとなく色というのはなにかを限定してしまうんですね。

 ところが墨、というのはそれを越えていろんな表現ができる。

 見る人になにかを訴えるという効果があるように思います。」

 (新日曜美術館より)

色に頼らず、対象の本質に迫りたい。
60を過ぎて墨と出会い、本質の表現により差し迫った。

墨だけで描かれたしだれ桜。
花びらの影を墨で描くことで花びらの艶やかさを浮き立たせる。
そして見えないはずの色が見えてくる。
ぼんやりぼかして描かれていて、写実的でないのに、
出来上がってみると幽玄さと同時にリアリティもある。

部分的には粗いタッチなのに全体を眺めると、
画家の個性と同時に浮か上がるリアリティ。
...印象派の画風とどこか似ていると思いませんか?

印象派は多彩な色を用いているのに対し氏の作品は墨一色。
...究極の印象派ともいうのでしょうか。


智積院の襖絵は見事だったけど、どこかもの足りなさを感じたのは、
襖絵と天井の鉄骨などのモダンさとぶつかったためでしょう。
本来木造の古典建築に合わせて制作されたものなので
しょうがないと言えばしょうがないんだろうけど。

やはり智積院の講堂で見るのが一番良い、ということなのでしょう。


あまりにも見事だったので、両会場で図録を購入。
どちらも2,000円と通常より若干安めだったし。

ただ三越会場のほうは売り切れてて後日郵送、ということになりました。

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[高島屋会場図録]


周囲がすぐに評価しなくても、自分が信ずる道を黙々と歩み続ける。
藝大の副学長、という地位に登りつめながらも初心を忘れない。
一見温和そうな顔の中に潜む強い意志。


日本画がもっと好きなれました。


三越会場のほうは今日で終わっちゃいましたが、
高島屋会場のほうは今月27日まで開催されています。
興味ある方はぜひ。

※両方ともすでに展示は終了しております。