フューチャリスト宣言 【梅田望夫/茂木健一郎】

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Web進化論」「Web人間論」に続いて梅田さんの著書三冊目。
今度はなんと!あの脳科学者、茂木健一郎さんとの共著です。

タイトルから「Web」が消えていますが内容は先の二冊と同じく
Webの可能性、Webにより実現する未来像が語られています。

先の二冊とのスタンスを考えればメインはやはり梅田さんで、
茂木さんがゲストという感じなのでしょうがなにせゲストがビッグすぎる。
日本のメディアで活発に活動している茂木さんに対し、
梅田さんはWeb関係者の間ではすっかり有名人だけど
日本の社会の中ではまだまだ知らない人も多い。

茂木さんのネームバリューでこの本は売れるんでしょうね、きっと。


書いてる内容は先の二冊と同じく、
正直Web関係者にとってはそれほど目新しい発見はないと思う。
ただ目の前に現実にとらわれて見失いがちになりそうなWebの未来を再確認する、
という意味ではいい本だと思いました。

このような本が売れるということは、
まだまだWebの可能性について理解できていない人が多い、ということなのかな。
Webが社会に浸透しているよう見えてまだまだその未来に懐疑的な見方も多い。

ウィルスやそれらを利用した詐欺行為などネットの悪い面を見てしまえば
確かにWebの未来について不安視する声も分からなくはない。

ただネットはあくまで道具の一つに過ぎなくて、
問題を起こしているのは人間。
銃などのように道具の存在自体が悪ならばその存在を消すことでしか解決しない。
しかしネットは言ってみれば「包丁」のようなものだと思う。
殺意を持つ人間が握れば凶器にもなるけれど、
普段は料理など日常生活になくてはならない「道具」なのです。
そして腕のいい料理人にとっては包丁はその料理人の可能性を広げるものとなる。


茂木さんはWebを「言語」以来の大きな発見とまで言ってますが、
それもあながち誇大な表現でもない気はします。

言語によって人間のコミュニケーション能力は飛躍的に進化した。
Webは時間や距離などの物理的制約を超えて情報伝達、情報共有を可能にする。
これまで伝えられなかった思いを伝えることができるようになる。
これまで知らなかった思いを知ることができるようになる。
まさに更なるコミュニケーションの進化。


ただそのネットの効果をある程度理解できている人にとっては、
この本はいささかネットの効果を誇大的にアピールしている気もしなくもない。
中にはネットを使えばなんでもできてしまう、と誤解する人もいるんじゃないかと。
そして失望する人が出てくるんじゃないかと心配になるのです。

僕がとくに抵抗を感じたのは現実の世界である「リアル世界」とは別に
「ネット世界」というもう一つの世界がある、という表現、
現実の地球とは別に、ネットの中にはもう一つの地球がある、という表現。
表現の好みの問題かもしれないけど僕はこの表現が嫌いです。
僕がリアリスト過ぎるのかもしれない。

ネットはあくまで膨大なデータベースに過ぎない。
そこには地球など存在しないし、触れて感じることのできる暖かみもない。
ましてやクオリアなんてあるはずもない。
大きすぎるデータベースを「世界」として認識してしまうことは危険だと思う。


人の意志を情報として受け取ることでネットから暖かみを感じることはできるだろ?
そういう人もいるかもしれない。
でもやはりそれはネットの中のものじゃない。
あくまで現実に生きる人たちの記憶をネットに置いただけ。
現実に感じている感覚、起きている事象をデータとしてコピー&ペーストしただけ。
どんなにデジタル技術が進んでも、コピーはオリジナルにはかなわない。
どんなにデータベースが大きくても所詮はコピーの集まりに過ぎない。

どんなにネットが発展しても、
人と直接対話するコミュニケーション以上のコミュニケーションはあり得ないと思う。
お互いをハグして感じる暖かみ以上のものをネットが与えてくれるわけじゃない。


あくまでネットは現実の世界に生きる僕たちの生活を豊かにするための道具。
同じ道具を使うなら、より良い使い道をみんなで考えようじゃない、と誰しも考える。
それがオプティミズムであり、オープンソース。
それは人間の習性であって道具の習性じゃない。
ネットはオプティミズムやオープンソースによる効果が絶大な「道具」。


だからネットのもたらす未来を信じてみようじゃない。
それが梅田さんや茂木さんの言わんとしていることではないのかな、と思いました。

僕もそれがようやく分かりかけてきた。
でも同時に信じ続けることの難しさ、人間の弱さがそれを難しくしていることも分かる。


...それでも信じ続けるしかないんだけどね。