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2008年6月19日

マイ・アーキテクト ルイス・カーンを探して【DVD】

建築デザイン/ 人物

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大学の研究室にはけっこうな数の建築関係のDVDが置いてあります。
ルイス・カーンの建築論を読みはじめたこともあって、
ルイス・カーンのDVDを借りました。

このDVDはドキュメンタリー映画となっていて、
監督はルイス・カーンの息子であるナサニエル・カーン。
内容はルイス・カーンの建築を知る、というよりは
父親の建てた建築を訪れることで父親の実像を知ろう、というもの。

言うなればこの映画は息子の父親の心を知りたい、というエゴのために作られたようなもの。


しかしだからこそ、この映画は僕の心に響く。
家庭を顧みず、仕事に走った男の心中はいかようなものだったのか。
彼を取り憑かせた建築とはどんなものだったのか。



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(出典:Wikipedia)


[バングラデシュ国会議事堂]


ルイス・カーンの息子、と言ってもナサニエルは愛人の子でいわゆる私生児。
カーンにはナサニエルの母親の他にももう一人愛人がいて、
カーンは正妻の家族と2人の愛人の家族と3つの家族をもっており、
しかもその3つの家族はお互い近くに住んでいたという。
それだけでもカーンのただならぬ人間性を予感させます。

3歳の時にカーンは事故により手と顔に大火傷を負います。
そのためにけして美男子と呼べない容姿なのですが
二人も愛人を囲い、正妻も離婚せずに長年に渡り彼に連れ添う。
彼には内面からにじみ出るカリスマ性、というべきものでもあったのでしょうか。

仕事はばりばりやるが私生活的にはけしてほめられたものではない。
多くの偉人によくあることですが、その偉人の息子にしてみれば、
親がどんなに偉業をなした人間でも、親からの愛情を感じられなければ
けして尊敬などできはしない。
そして親を尊敬できないことほど不幸なことはない。

それがナサニエルがこのドキュメントを作った動機なのでしょう。

その作品を見て僕らはどう思うか。
優れた建築は優れた人間性から生まれるのか?
それともやはり人間性は関係なく、能力の問題なのか?

これらの問いの対する答えが今後僕が選択すべき道に大きく影響する。
なぜなら僕は今後能力さえあればできるような仕事はやりたくないから。


映画のなかではフィリップ・ジョンソン、I.M.ペイ、フランク.O.ゲーリーなどの
ビッグネームが登場してきます。そしてルイス・カーンを称賛する。
現在では「最後の巨匠」と呼ばれ、
コルビュジエ・ライト・ミースの三巨匠に勝るとも劣らない評価を得ているカーンも
その実力が評価されるようになったのは実に60を過ぎてから。
そして73歳に心不全で亡くなるまでの10年ちょっとで
彼は自分の建築に花を開かせる。


建てた数で言えば彼はそれほど多くの建築物を建てていない。
実現しなかったプロジェクトも数多くあったという。
また実現したプロジェクトの多くがその規模の大きさゆえに多くが赤字だったという。
それでも現在では彼の建築家としての評価は高い。
経済的に成功することが、建築家として成功する、というわけではないようです。


建築は長いスパンで評価される。
そして長い時間をかけて熟成する。
5年や10年で取り壊されるような代物であってはならない。
建築はその機能だけではなく、その精神が表現されるべきものなのです。
だから建築家は求道者でなければならない。
そしてカーンはまさに求道者だった。自分の内面を追求した。

自分の内面を追求する、ということはけして社会と断絶するということではない。
むしろ社会との関連性を追求するもの。
自己の内面=エゴを知るには自己の外面=社会を知る必要がある。
エゴを知りたいということは、社会を知りたいということだ。
エゴを良くしたいと思うことは、社会を良くしたいと思うことだ。  

エゴを無視して社会は成り立たないし、社会を無視してエゴは成り立たない。


旅の最後にバングラデシュの国会議事堂でラサニエルは
シャムスール・ワレスという建築家にインタビューします。

ワレス(以下W):  「5日目?たくさん撮った?でも建物の本質をとらえられたかな?
  空間や光やボリュームとかをね。空間の重なりや曖昧さも」

ラサニエル(以下R):
 「それはどうかな。この建物に映画全体の10分を割り振る」

W: 「それは残念なことだな。この建物にたった10分?」

R: 「たぶんね」

W: 「でもそういう扱い方をしたらなにも表現できません。
    30年前我々の力では建てられなかった建物ですよ。ここは田んぼだった。
    ルイスは使命を担ってくれたんです。我々に民主主義を与えてくれた。
    民主主義を広める場としての議事堂を与えてくれたんです。
    貧乏な国だということを彼は気にしなかった。
    実現するか否かもね。でもお陰で見事に竣工した。
    世界一貧しい国に彼の最大の建物ができた。」

R: 「命を代償にね」

W: 「この建物に命を捧げてくれた。だからこそ偉大で記憶に残る。
    でも彼も人間です。家族のために尽くせないのは
    偉大な人間に往々にしてあることだ。
    あなたも父親を十分に理解すれば恨んだり不満を抱きはしない。
    彼は独自の愛を貫いた。理解に時間がかかる。
    社会生活では子供っぽく成熟してはいなかった。
    断れない性格の彼だからこの建物ができた。
    これがルイスの人となりだ。
   
    とにかく議事堂を与えてくれた。
    感謝してる。我々を愛してくれたんです。
    あなたへの愛と少し違い我々をきちんと愛してくれた。
    ここが大事だ。分かってもらいたい。
    彼は世界中の人を愛したんだ。
    大勢を愛するがゆえに家族がおろそかにされることもある。
    彼ほどの人なら当然そういう結果になる。」


...涙を流して語るワレスの姿からカーンの実像と彼の建築がもたらすものが見えてくる。



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