A4ギャラリーでのアントニン・レーモンド展を見て、
この本を読むことにしました。
40年以上も日本に住みながら、日本語が書けなかったため、
原文は英語でそれを他人が訳した文章ですが、
建築家が書く文章にしては比較的分かりやすい文章でした。
本書は本としての執筆ではなく、
雑誌への論文や講演内容などをとりまとめたもの。
ここ3年、建築家の文章を読むようになって自分なりに思うことは、
訳の分からぬ文章を書く人ほど、スケールのでかい建築を創る、ということ。
はたしてレーモンドはどうだったのか。
1888年チェコ生まれ。
ヨーロッパで発売されたライトの作品集に惹かれ、渡米。
ライトの事務所で働く好機を得るも、
スキャンダルの真っ最中で干されかけていたライトの下に仕事はなく、
短期間で事務所を出る。
日本での帝国ホテル設計の折にライトの要請を経て来日。
以後日本建築にモダニズムの本質を見出し、
戦争をはさんで44年間日本に滞在する。
人生の半分以上を日本で過ごし、
それでいて外国人、という立場から日本を客観的に理解することができた。
ある意味日本人以上に日本建築を理解した日本の建築家といえます。
彼はライトやコルビュジエ、ミースほどのスター性はなかったのかもしれない。
しかし日本人としてふと目を回すと、近くに彼の建築が存在する。
自分の近くの建物で、いいな、と思った建物がレーモンドの建築だったりする。
...聖オルバン教会はまったく気づかなかったけど。
まあ、それも無理からぬことかもしれない。
建築は外部からではなく、内部からにじみ出るものでなければならない。
建築は自然と闘うものではなく、自然と共存するものである。
建築はこれ以上削ぎ落とす必要もなければ、これ以上付け加える必要もない、
最小限の部材で構成されなければならない。
建築を支える構造が自然とその建築の外廓を決定する。
レーモンドの建築は内部からはじまるものである。
レーモンドの理念が理想的に実現される場合は、
内部の良さが外部にそっくりそのまま現れる。
しかし、どんなに優れた手腕をしても理想的な建築の実現はなかなか難しいのであろう。
彼の作品を見ていると、内部の良さが外部へいかに突き出るか、という
苦悶の連続だったような気がしてくる。
僕は彼の作品が好きだ。
先日の展示では「木造モダニズム」というテーマで、
木造の作品ばかり紹介されていたけれど、
実際はコンクリの建築もたくさん創ってたんですね。
展示でも見た札幌聖ミカエル教会や、聖オルバン教会などの木造建築も良いけれど、
群馬音楽センターや立教高校教会、聖アンセルモ教会などのコンクリ作品も素晴らしい。
以下レーモンドの主要建築作品。
造形的に一番ダイナミックなのはやはり群馬音楽センター。
聖アンセルモ教会(目黒)
次に述べる永久不変の諸原則は、美学的見地から、いつも私の作品を支配しているものである。自然は人工より美しい。単純さと軽快さは複雑なものよりも美しい。建物の広さにしても、材料にしても、節約は浪費よりも美しい結果を生む。そして、すべてのこれらの美的要素は、建築の実用的、美的機能を中心として生まれなければならない。デザインの明快さと、優雅さを減殺するような心配のあるものは全廃しなければならない。これによって、建築の本当の骨組みが、人体の骨格のように現れる。(P194「打放しコンクリートについて」)
本書では、レーモンドの五原則については記述されていませんでした。
レーモンドの事務所で働いていた三沢浩さんによるレーモンド建築の解説本が
同じ鹿島出版会のSD選書から出ているので、今度はその本を読んでます。
日本人より日本を知っている異邦人から、
日本をもっと教えてもらえる気がする。