セシル・バルモンドの名著。
400ページにわたる分厚い本で字も小さいのですが、
オールカラーでスケッチや写真が多く、
意外にあっという間に読み終えました。
しかし内容はさっぱり理解できない。
なんかべつの次元の話を聞いているみたいで。
それでも彼の言葉は僕を惹きつける。
構造の魅力が、構造の秘密がそこにはある気がした。
構造には、決まりきった柱や梁の他にも多くの可能性がある。スラブは折り畳まれて、鉛直面として機能することもあるし、梁は二股に分かれて形を変え、柱が梁として機能することもあり、各種構成要素はすべて、形態をすばらしい方法で生み出すために存在している。問題は、構造を空間のありかたの再検討のための新しい分野とすることができるかだ。現在では、コンピュータによって、かつてないほど自由に何でも探求することが可能である-その結果はめまいがしそうで頭の痛いほどの何でもありの好き勝手だ。でもクールな新しい形態やブロッブも、通常の柱と梁の工法で支えられているだけなら、ただのハリボテでしかない。自由な形態の確立に完全性を作り出すには、その構成にも柔軟な出発点をもった新手法が必要だ。線の代わりに面、均等支持の代わりに分散、固定した中心の代わりに移動する中心点、点の代わりにゾーン。こうしたシナリオは、本書の各種プロジェクトにまたがっている。別荘から大きな駅のホールまで、普通のフレームからフローダイアグラムやアルゴリズム、直行性から自分自身に折り重なる空間まで。そして共通の特徴がある。それぞれの場合に、デザインに影響を与えるのは、そのローカルな強制力だ。あるいはリズムを強調する重ね合わせ、あるいは複数のイベントが混ざってハイブリッドな性格を生み出している。影響は拡張や重ね合わせで増幅されるにつれて、驚くべきあいまいな答えが生じてくる。ヒエラルキーがなく、相互依存のみの、このアイデアのテンプレートを私は「インフォーマル」と呼ぶ。でも静的な建築形態の中で、動的な部分はどこにあって、何が非線形となるのだろうか?(『序』より)
インフォーマル(informal)という言葉は、「形式的な」「型にはまった」という意味の
フォーマル(formal)の反対語です。つまり「型にはまらない」という意味になりますが、
科学や数学といった厳格な規則性=フォーマルに基づくエンジニアがその対極を
論じている点が面白いところなのだと思います。
渾沌はどこまでエンジニアリングという厳格性の中で表現できるのか。
それがセシル・バルモンドの挑戦であり、Arupの挑戦なのでしょう。
本書は彼が携わったプロジェクトを紹介することでその構造哲学を解説していきます。
紹介されていたプロジェクト。
・ボルドーヴィラ(OMA、1998年)
・クンストハル美術館(OMA、1994年)
・ケムニッツスタジアム
・ユーラリール
・V&A スパイラル(ダニエル・リベスキンド、1996年)
・コングレキスポ(OMA、1989年)
・リスボン万博・ポルトガル館(アルヴァロ・シザ、1998年)
・アルンヘム中央駅(UN Studio、1997年)
[V&Aのタイルに使われているアマン・グリッド](出典不詳)
渾沌への挑戦。違和感への挑戦。
それがセシル・バルモンドが表現する構造の魅力なんでしょうか。
カラトラバのような(自然の中の)秩序の美しさを表現する構造が好きだけど、
こちらもなかなか。