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2007年12月15日

ダリ わが秘められた生涯

アート/ 読書


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天才とはある特定の部分において繊細だと思う。
そしてその繊細さゆえに天才は脆い生き物だと思う。

しかし彼は強かった。天才でありながら強靭。
天は彼に二物を与えたのか...


偉大なシュルレアリスト、ダリの自伝を読みました。

自伝といっても彼が37歳のとき執筆したもので半生記になるわけですが、
彼は本書中で半生を振り返ると同時にこれからの人生を予見してもいます。
とにかく彼は早く歳をとりたかった。早く「老人」になりたがった。


しかし読むのに苦労しました。
ダダイスム、シュルレアリスム関連の文章は例外なく読みづらい。
だから絵やオブジェによる作品が必要なのかもしれないですね。


サルヴァドール・ダリ。
その名が示すとおり彼はシュルレアリスムの救世主(サルヴァドール)だった。
自他共に認める天才だった。
彼は自らを「自分こそ唯一絶対の真のシュルレアリストである」と語るように
多くのシュルレアリストの中でもとくに奇異な存在だったようです。



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[記憶の固執]


自分のダリとの出会いは小学生の頃だったと思う。
当時はシュルレアリスムなんて言葉は知らなかったけど
図書館の本かなんかで「記憶の固執」を見て、
そのタイトルどおり以来ずっと頭の中の記憶にとどまり続けている。
彼の絵の威力とはなんなのだろう...


読み始めは読みにくさと同時に、彼の俗悪な部分、奇異な部分に
ショックを受けてかとの書く読み進めるのが辛かった。
途中何度読むのを挫折しようとしたことか。

幼少の頃の記述ではとくに彼のサディズム、マゾヒズム的な部分が印象に残った。
天才でなければただの変態だよ。
そんな彼の俗悪さに嫌悪しながらも、彼ほどではなくとも自分にも存在する
そんな俗悪な部分が共感を呼び起こす。
そしてそんな俗悪な部分を怯えることなくさらけ出せているダリを羨ましく思えた。


ダリは生まれ来る前の母親の胎内の記憶があるといいます。
それをダリは精神分析家オットー・ランクの著書タイトルである『出産外傷』という
言葉で表現しています。

胎内はまさに楽園で、出産とはその楽園から現実という世界への追放だという。
出産によって人は外傷を受けるのだという。
だから人は母親の胎内への回帰願望があるという。
しかしだからといってダリは楽園主義者なのではなく、あくまで「超」現実主義者。
現実に存在するそんな願望を鋭く指摘しているだけなのです。


本書中では「批判的偏執狂的方法」とか「譫妄的」という表現が頻繁に登場します。
辞書で調べると偏執は「偏った見解を固執して他人の言説を受け付けないこと」、
「譫妄」は錯覚や幻覚が多く、軽度の意識障害を伴う状態」とあります。
まさに本書からはダリのそんな部分が垣間見えてくるわけですが。
強い自我に絶対の自信を持つこと。
凡人がそんなことをすれば周囲はただ迷惑するだけですが、
天才はそんな行動で人を惹きつける。
彼はデザイナーではなく、真にアーティスト足るべき人間なんだと思います。
しかし彼が持つ個性が全くデザインに必要ないかといえばそうではないと思う。
彼の持つ個性には存分にデザインに生かされるべき「構成原理」がある。


シュルレアリスムの初期の特徴である「オートマチスム」には否定的。
彼がひたすら求めたのは「伝統」であり、「ルネサンス(再生)」である。
それは彼の絵を見ているとなんとなく分かる気がします。
一見斬新な絵でありながらよく見ているとどこか懐かしい気がしてくる。
そこにはダリの伝統への尊敬と帰依が垣間見え、
さらには母親の胎内への回帰願望へと繋がるのだと思う。
そんな現実を見つめようとするダリはやはりホンモノのシュルレアリストなんだと思う。


破天荒な行動でありながら人間としてもつべき基本的な部分は持っている。
ダリのそんな部分を感じさせるのが愛妻ガラへの愛情です。
「ガルーチカ」と名づけた彼の理想の女神像を具現化したガラとの運命的な出会い。
理想が明確だったからこそ、彼は運命の人との出会いを見逃さなかった。


その奇行が目立つゆえに取り沙汰されがちなダリですが、
考えてみればただ彼は正直に生きたかっただけではないのか?
誰だって心の中に奇異性を持っているはず。
彼はそれを忠実に表現し、エゴに忠実に生きただけ。
そんな気がしてならないのです。

他人の心を思いやることはとても大切なことです。
しかしそれは自分のエゴを騙してまで、殺してまですることなのか。
そうすることははたして善といえるのか。
善と呼べたとしても、それが人として生きるために最良の道なのか。


シュルレアリスムって奥が深い。
そして自分もリアリストである以上、シュルレアリストを目指したいと思う。



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